積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「俺は別に今のままでも問題ないぜ」

少しはお前が練習して作ってみれば――?

そう言いたかったが、ブーメランになって飛んできそうだと思い、それ以上は口をつぐむ。

「明るく楽しい大学生活が待っている!とか言って喜んでたけど、これはまさかの盲点だったなぁ」

栞はぶつぶつ言いながら、総菜のコロッケをつつく。

「コロッケかぁ。そう言えば、瑞月のコロッケも美味しかったよねぇ」

その名前を聞いて、俺は懐かしく思い出す。

「瑞月はお菓子作りも料理も、ほんと上手だったよな。そういえば、瑞月とはこっち来てから会ったのか?」

「メッセージはやり取りしてるけど、顔を合わせたのは引っ越し前だよ」

コロッケを完食しごくりと飲み込んで、栞がにっと笑って俺を見た。

「あたし、今、ものすごくいいこと思いついちゃった」

「なんだよ、いいことって」

「あのね、瑞月にお願いしてみない?うちらにご飯作って、って」

「おまえ、それはいくらなんでも……」

さすがに図々しいんじゃないかと、俺は眉根を寄せて妹を見た。

「それだけの理由で思いついたわけじゃないよ。瑞月は一人暮らしでしょ?心細いんじゃないか、って思うんだよ。だからさ、時々ここで一緒にご飯食べたりしたら、寂しくないかなって思うの」

「なるほどな」

俺は栞の言葉に頷いた。

「確かに、それはあるかもな」
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