積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「久しぶりだな。元気だったか?」

手を伸ばして触れたい衝動を抑え込みながら、俺は言った。にこっと笑って挨拶をする瑞月を見たら、口元が緩む。しかし次の栞の言葉で、一気に冷静になった。

「今日は瑞月、うちに泊まるからね。間違っても変な気を起こさないでよ」

内心でひどく焦った。

聞いてないぞ――。

しかしその動揺を顔に出さないよう、俺はあえて顔をしかめてみせた。内心では、栞のくだらない心配にイラッとする。妹の言う変な気を起こして、万が一にも瑞月に嫌われることにはなりたくないのだから、そんなのは余計な心配だ。

食事の後に栞が風呂に行っている間、瑞月と二人きりになって俺は緊張した。自分の気持ちを瑞月に悟られないようにと注意を払った。けれど、瑞月に好きな人ができていたりしないかは、ちゃっかりと探る。

好きな人がいないなら――と、ほんの少しだけ欲のようなものが顔を出した。少しくらいは、俺を男として意識してくれたりはしないだろうか、とふと思う。

すごく綺麗になった、などと言い慣れない言葉を口にしてみた。触れたい気持ちに抗えなくて、せめてこれくらいと自分に言い訳しながら昔よくやったように瑞月の頭を撫でてみた。

それくらいのことで、瑞月が簡単に意識してくれるとは思っていなかったけれど、案の定の反応に俺はがっかりした。

俺はまだ、瑞月にとっては幼馴染のお兄ちゃんらしい……。

俺は苦々しい思いで、風呂から上がった栞と入れ違いにリビングを出て行く瑞月の背中を見送った。
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