【改訂版】積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜
 「よいしょ」の掛け声からこっち、やっぱり思い出せない。覚えているのは、抱かれていた時の感触だけ。私は膝の上でギュッとこぶしを握った。間接照明に照らされた諒の顔を見た時から、頭の中でリフレインしているのはただ一つの言葉。

 マズイ。マズイ。マズイ……。

「瑞月、今、マズイって思ってるよな」

 諒の声に身がすくむ。

「はい、心の底から思っています……」

 恋人でもなんでもない、兄と慕っていたはずの幼馴染である諒と、体の関係を持ってしまったのだ。これから先、彼とどんな顔をして会えばいいのだろう。私たちは今後一切会わない関係ではない。諒の妹の栞と私も幼馴染であり、親友同士。私の従兄の凛と諒は親友同士。さらに付け加えるなら、実家の両親たちは仲の良いご近所同士だ。
 私はベッドの上に正座して、諒の前にがばっと手をつき哀願した。

「諒ちゃん、すみませんでした。申し訳ありませんでした。今夜のことは過ちだった、夢だったということで、どうか許してください。お願いだから忘れてください……」
「はぁ?」

 諒は私の方へずいっと体を近づけた。
 私は彼から離れるように体を後ろに引く。

「今、忘れてとか言った?……いいか、瑞月。最初からきっちり説明してやるから、よく聞けよ」
「な、なんでしょう……」

 いつも私には優しかった諒が、こんな言い方をするのは初めてだ。恐くなって私は首をすくめた。
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