積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「そうだといいけどね」

私は乾いた笑い声を上げて、車の窓ガラスに写る自分の顔を見つめた。大学を卒業するのはまだまだ先だし、今からそんなことを考えても仕方ないけれど、すでにレールが敷かれているように思えてしまって少し気が重くなる。

私の今の気分を察したのか、諒は無言のままハンドルを握っていた。

間もなくして、私の部屋があるマンションに着き、諒はエントランス近くのわき道に車を寄せた。

「今日は本当にありがとう。忙しいはずなのに、ごめんね」

「別にいいさ。また遊びに来いよ。栞と待ってるからな」

「うん」

答えながらシートベルトを外していると、諒が不意に言った。

「なぁ。瑞月はさ、どんな男だったらいいわけ?」

「え?急に何?」

「いや、瑞月が好きになる男って、どんなやつなのかな、ってふと思ったからさ」

「そうねぇ……。やっぱり、優しくて頼りがいのある人がいいよね。私のことを一番に思ってくれて。もちろん、私もその人のことを一番に思って」

「なるほどね」

「それじゃ、おやすみなさい。またね」

「あぁ、部屋まで気をつけて帰れよ。転ばないようにな」

私は車のドアを閉めると、エントランスへ足を向けた。階段を昇り切ったところで振り向くと、諒の車はまだそこにあった。

私が見ていることに気がつくと、諒は早く行けとでもいうように手を振る。

もしかして、見送ってくれてるのかしら?

勘違いかもしれないけれど、そう思ったら、酔いのせいだけではなく胸の奥がほのかに温かくなった。
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