積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜

第13話

 例の泥酔事件の夜から二週間ほどが経っていた。
 連絡すると言っていたくせに、諒からは何もない。恋人役を頼まれたが、実際にはそれらしいことは何もしていない。私からもコンタクトは取っていないから、本当に何もない。あれは夢だったのではないかと思えてくる。 
 諒に愛されたその翌朝、私はいつもバッグに忍ばせているマイバッグに諒から借りた物を入れて、逃げるように玄関に向かい靴を履いた。
 見送ろうとしてか、諒が後を追ってくる。
 私は振り向かずに言った。

「借りたものは後で洗って返すから……」
「あぁ、ありがとう」

 その口調はあまりにも普通だった。
 どうして何もなかったような態度でいられるのかと腹が立つ。夕べは送っていくと言っていたくせにもう忘れているのかと、八つ当たり気味に思う。
 イライラしたままドアを開けた私の背に、諒はさらりと言った。

「またな。連絡する」

 つい振り返って見たその顔には、今までと何も変わらない笑みが浮かんでいる。そのことにますます腹が立ち、私はぷいっと顔を背けて無言でドアの外に出た。外の空気に触れた途端に、疲労感、罪悪感、後悔、羞恥、混乱、様々な感情が一気に押し寄せて来た。

「はぁぁ……」

 私は深いため息をつき、肩を落としながら諒の部屋を後にしたのだった。
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