【改訂版】積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜
 その日のことを思い出し、今日何度目かのため息をつく。借りた物を洗って返すだなんて、考えなければ良かった。洗ったはいいが、いつ返そうか。それともこのまま知らんぷりを決め込むか。部屋の片隅に置いたままの紙袋に目をやる。中身はあの夜借りた、諒の部屋着とタオル類だ。

「恋人役ねぇ……」

 彼の恋人のふりをするのは初めてではない。学生時代にも経験がある。その一件は、偶然その場に私がいたからそういうことになっただけだった。しかし今回はその時とは違うようで、諒が考える恋人役の演じ方が今一つ分からない。
 それとも、とはたと考える。
 実は「恋人役」云々は質の悪い冗談だったのではないだろうか。冗談だから連絡がないのでは?あるいは諒もあの夜のことを猛省していて、私に合わせる顔がないからと連絡できずにいるのではないか?
 そう考えて、このまま疎遠になったりしないかと急に不安になる。
あの夜のことは忘れたい事件であるのは確かなのだが、もう二度と諒に会いたくないわけではない。物心ついてからこれまでずっと積み重ねてきた大切な関係だ。自分の、あるいは互いの暴走が原因だとしても、これきり会えなくなるなどと考えたくない。

 連絡、してみようか――。

 私は携帯を手に取った。
 普段の諒は滅多に自分からは電話をかけない。仕事柄帰宅時間が不規則だからと言って、メッセージの方を好んで使っている。
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