積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は想いを秘め続けていた〜
 私はアプリを開き、文字を打ち込もうとして指を止めた。書き出しをどうしようか迷う。

 元気?それとも、やっぱり「こんばんは」で始めた方がいい?

 最初のたった数文字に頭を悩ませていると、着信音が突然鳴り響いた。驚き慌てて確かめた画面には、諒の名前が表示されていた。一瞬ためらったが、ひと呼吸置いてから電話に出た。

「……もしもし?」
――瑞月?今って、どこにいる?

 電話越しの声は知らない人のもののようで、少しだけどきりとする。

「部屋、だけど」
――そうか。あのさ、これから行っていい?腹減っててさ。なんでもいいから食わせてくれないか。
「え……」

 絶句した。謝るところから始めてほしかったわけではない。しかし、二週間ぶりの電話の用件が「何か食べさせて」だなんて。一人でヤキモキしていたのがばかばかしくなる。

――だめ?

 電話の向こうの諒は、珍しく甘えたような口ぶりだ。
 私は口ごもりながら答えた。

「今からだと、たいしたものは作れないけど。それでもいいなら……」
――やった。それじゃあ、今から行くから待ってて。

 諒は嬉しそうに言って、そのまま通話を切った。

「なんなのよ」

 切れた電話に向かってぶつぶつ言いながらも、もう会えないわけじゃないのだとほっとしていた。この前のことは大事故だったが、互いに心の底にでも沈めて時間をかけていけば、再び今まで通りでいられるかもしれない――。そんな希望が見えた。
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