積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
EP-8
「久保田君!」
諒に気づいた彼女は嬉しそうな声をあげて、私からぱっと手を離した。
諒は私たちの前まで来ると、厳しい顔をして彼女を見下ろした。その手を掴むと、マンションから少し離れた場所にある空地へと引っ張って行く。
確かにエントランス前で揉めていては目立ちすぎる――。
今さらながらに反省しつつ、今は二人の様子が気になった。彼らから少し離れて後を着いて行く。
「俺にはもう関わらないでくれと言ったはずですよね。それなのに、またこんな風にやって来て……。いい加減にしてください」
「あなたが好きだから、どうしても諦めきれないの。ねぇ久保田君、彼女がいないんなら、私と付き合って。お願いよ」
しかし諒は全身で拒否するかのように、深々と長いため息を吐き出した。
「もういったい何度同じことを言えば、あなたは理解してくれるんでしょうね?」
「だって、こんなにあなたが好きなのに」
「何度そう言われても、俺はあなたとはお付き合いはしませんし、これから先だって好きになることは絶対にありません」
諒の言葉を近くで聞いていた私は、ずいぶんと辛辣な言い方をするものだとハラハラした。私だったら、これで十分に諦めがつく。
それなのに言われた本人は、諦めることをまだ諦めていないようだった。とは言え、その表情に、この前のような余裕は見えない。