積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「……彼に口留めされていたから」

苦しい言い訳だとは思ったが、彼女はそれ以上追及してこなかった。その代わりこう言った。

「そ、それなら、付き合っているっていう証拠はあるの?」

「えっ……」

言葉に詰まった私の肩を諒はきゅっと抱き、髪に顎を埋めながら、艷やかな笑みを浮かべる。

「恋人じゃなきゃ、こんな風には触れませんよ」

「それくらいのこと、証拠にならないわ。例えばキスくらいはしてみせてくれないと。簡単でしょ?」

「まったく……困った人ですね」

諒は呆れ顔で彼女を見た。

「キスして見せたら俺たちが本当につき合っていると認めて、今度こそ本当に諦めてくれるんですね?」

「え、えぇ、悔しいけれど……仕方ないわ」

彼女は唇を噛んだ。

諒はわざとらしく肩で大きく息をつき、つぶやいた。

「しようがないなぁ。見世物じゃないのに……」

諒はその手を私の頭の後ろにそっと回すと、小声で言った。

「瑞月、ごめんな」

待ってよ。本当にキスするの――?

答えを確かめる暇もなく、諒は私の唇に自分の唇を重ねた。混乱して彼の胸を押し戻そうとする私を宥めるように、あるいは彼女から私の姿を隠すように、もう一方の腕で私をそっと抱き締めた。

唇が触れあっていた時間は、ものの数秒だったはずだ。それなのに、まるで時間が止まったかのようにひどく長く感じられて、呼吸が苦しい。
< 74 / 191 >

この作品をシェア

pagetop