積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
私はぐすっと鼻をすすった。

「本当よ。こういうことは、もっとうまくやってよ」

「そうだよな。ほんと、ごめん……。だけどこれでやっと、あの人から解放されたはず。瑞月のおかげだよ。付き合ってるふりしてくれて、ありがとな」

「そんな言葉だけじゃ、許せないよ」

「ごめんよ。とにかく、その荷物、貸せよ。ずっと持ちっぱなしで、手が疲れただろ」

「……うん。お願い」

私はうつむいたまま諒に荷物を渡した。どんな顔をして、彼を見たらいいのか分からない。

それに気づいているのかいないのか、諒は歩き出しながら、今の出来事とはまったく関係のないことを口にする。

「今日の晩飯は、何を食べさせてくれるの?」

私は自分の足元を見たまま答えた。

「ん、トマトパスタとかどうかなって思って……」

「うまそうだな」

いつもと変わらないそんな会話を交わす。

私は諒の少し後ろを着いて行きながら、思う。私だけが動揺しているのはどう考えても不公平すぎるし、そう簡単に「なかったこと」になんてできない。だから彼の背中に向かって言った。

「こんな形で諒ちゃんにファーストキスを奪われたこと、やっぱり許せない」

立ち止まった諒は、そろそろと振り返った。

「本当にごめん。……どうしたら許してくれる?」

諒は少ししゅんとして見えた。
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