積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「分かった」

諒は観念したように言った。

「仕方ない。絶交されるよりましだ。それで許してもらえるんなら、頑張って食べるよ……」

「ということで、ニンジンサラダやニンジンの煮物、ゴロゴロニンジン入りカレーなど、ニンジンが毎回出ます」

「できれば食べやすいように頼むよ……」

はあっとため息をつく諒の顔を見て、私はようやく頬を緩めた。

とは言え、それからしばらくは諒と顔を合わせにくかった。それでも、栞に誘われれば遊びに行き、頼まれれば夕ご飯を振舞った。

ただし、毎回必ず何かしらの形でニンジンがテーブルに並ぶことになったのは、宣言した通りだ。

それが何回か続いたある夕食の席で、栞が不思議そうな顔で私に訊ねた。

「最近よくニンジン出してくれるよね。美味しいけど」

私はにこっと笑って涼しい顔で答えた。

「だって、ニンジンって体にいいでしょ?それに、諒ちゃんももういい大人なんだから、いつまでも子どもみたいなこと言っていないで、克服した方がいいかなって思ったのよね」

諒は私のもっともらしい言葉を苦々しい顔で聞いている。私との約束通り、今日は、ほとんどニンジンであるサラダ、キャロットラペをちびちびと口に運んでいた。

それを見ながら私は満足する。

――だってこれは、乙女の唇を無理に奪ったペナルティなんだから。

食後、食器を片づけていると、諒が傍に寄って来た。栞は今、お風呂を掃除しに行っていてここにはいない。

「瑞月って、結構性格悪かったんだな」

「絶交しなかっただけマシでしょ?」

私はぷいっと顔を背けた。
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