積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「確かにそうだな。これくらいで済んで良かったよ」

苦笑を浮かべる諒に、私はふと思い出して訊ねた。

「それで、あの後あの人は?」

「あぁ、おかげでぱったり。ほんと、助かったよ」

「それならいいんだけど……」

私には気になっていることがあった。諒が私とつき合っているという例の狂言話は、あの人のところで止まっているのかどうかだ。

「俺に彼女ができたって話は、周りには知られてしまったんだけど、それが誰かまではみんな知らない。会わせろって言われても、適当にはぐらかしているし。ひとまず俺にとっては、いい虫よけになってる」

「そう……」

私は諒の顔をしげしげと見た。

「何?」

「諒ちゃんに、早く本当の出会いがあればいいのに、って思ってさ。そしたら今回みたいに、私で間に合わせるようなことをしなくても良かったのに」

「間に合わせるって、なんだよ、それ」

「だって、たまたまあの場に私がいたから、ってことでしょ?いろんな意味で」

諒は脱力感一杯の顔で私を見下ろした。

「あのなぁ……。俺は」

諒が言いかけた時、栞が戻って来た。

「お風呂、準備できたよ。瑞月、たまには先に入ったら?」

「そう?いいの?」

「もちろん!お兄ちゃんはいつも通り、最後でいいよね」

諒がため息交じりに妹に答えた。

「それでいい」
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