積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
諒はやれやれとでも言いたげな顔をして、栞の部屋を出ていこうとした。しかしドアのところで足を止めて振り返り、私に向かって笑いかける。

「瑞月、クッキーありがとう。こういうのって、やっぱり嬉しいな」

「また作ったら食べてくれる?」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

頷く諒に、私はふと思い出して言った。

「そう言えばね。いとこが、諒ちゃんと同じ高校に入ったんだよ」

「へぇ、例の仲良しのいとこか?そう言えば、今まで名前を聞いたことなかったよな。なんていう人?」

「凛。高山凛って言うの。だからね、もしも会ったら仲良くしてほしいな」

「高山凛さんね。よし、覚えとくよ。じゃ、またな。宿題頑張れよ」

諒が部屋を出て行った後、栞が頬杖をついて私に訊ねた。

「そのいとこさんって、お菓子作りが得意な人なの?」

「そうなの。料理もね、すごく上手なの。将来好きになった人の胃袋を掴むんだ、なんて言ってるよ」

私はいとこの顔を思い出して、くすくす笑う。

「ふぅん……」

「どうかした?」

栞が何か言いたそうにしていることに気づき、私は首を傾げる。

「そのいとこさんのこと、お兄ちゃんに紹介して大丈夫だったの?」

「へ?だって、仲良くしてもらいたいな、って思ったから話したんだけど。だめだった?」

「別にだめじゃないけど……。いいや、なんでもない」

栞の顔には苦笑が浮かんでいる。

それを不思議に思いながら、私は教科書を開いた。
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