積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「あの、お久しぶりです。えぇと、本日はおめでとうございます」

私は立ち上がって慌てて頭を下げる。

すると諒もまた、かしこまった様子で頭を下げた。

「ありがとうございます」

それから諒は姿勢を戻して私を見ると、ぼやくように言った。

「まさか妹に先を超されるとは思っていなかったよ」

大人の男性になって変わってしまったかもしれない―ーそう思っていた諒が、今までと変わらない口調と態度で私に接してくれていることに、ほっとした。だから私も、昔のような口調に戻って言った。

「そんなこと言っちゃって。よりどりみどりで選んでいるからじゃないの?だって諒ちゃん、相変わらずモテそうだもの」

諒は苦笑した。

「よりどりみどりって、まるで遊んでいるような言い方はやめてくれよ。人聞きが悪いだろ」

「そういう意味で言ったわけじゃないよ。だって、お医者さんって、周りに女の人がたくさんいるような職場でしょ?一人くらい、いいなって思う人がいるんじゃないの?」

諒は専攻医となっていて、大学時代から住むこの街の総合病院に勤務していた。

「まさか、職場でそんな気になるわけがないだろ。……それより、瑞月。あれだよな。今日のお前は、馬子にも衣装ってやつだな」

大人になったと思ったのは、どうやら外見だけだったようだ。私はムッとして諒を睨みつけた。

「失礼ね。しばらく会わない間に、ずいぶんと口が悪くなったんじゃないの?久しぶりに会ったのに、そういう失礼なことを言うだなんて。そこは嘘でも、綺麗になったなとか言うところでしょ?」
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