積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
ちくちくと嫌味をぶつけてくる凜から逃げるように、俺はグラスに口をつけた。

「……あっ、今、隣の男が瑞月ちゃんの背中に触ってる」

「えっ!」

俺は背中を預けていた椅子から体を起こして、瑞月がいる方へ首を伸ばした。

「あ、あいつ……」

「まったくもう……。おバカさんとしか言いようがないわね」

凛がますます呆れた顔をした。

今まで特にはっきりと打ち明けた記憶はなかったが、凜は俺の瑞月への気持ちを知っている。

「俺だって自分がバカなのは、嫌っていうほど分かってるんだ。でも、仕方ないだろ。瑞月は俺のこと『幼なじみのお兄ちゃん』としか思っていなかったんだから」

「そうやって言い訳して、忙しさにかまけてグダグダしていたら、他の男に獲られてしまった、と」

「分かってる、って言っただろ。きっといつか、瑞月が俺を男として見てくれる日が来るかも、なんて淡い希望を持って、悠長に構えてたのが悪いってことは……」

凛がなんとも言えない顔で俺を見ている。

俺は水滴をまとわりつかせた水割りのグラスを、くいっとあおった。

「小さい頃からずっと一緒にいた。小中と周りは知り合いだらけで栞も一緒だったし、高校は女子校だった。大学に入ってからだって、すぐ目の届くところにいたから、なんとなく安心していたんだ。あとはもう大丈夫だろうって、何の根拠もないのにさ。ゆっくりと時間をかけて、俺の気持ちに気づかせていけばいいなんて、そんな風に思ってた。それに、あんなことがあって、さすがの瑞月も、少しくらいは俺を男として意識するようになるんじゃないかって、期待してしまった」
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