積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「瑞月ちゃん、元気そうね。あらまぁ、なんだか女らしくなったんじゃないの?」

凜の言葉に、瑞月は軽く唇を尖らせて文句を言う。

「今の言い方だと、これまでが女じゃなかったみたいに聞こえちゃうんだけど」

少しほろ酔いでもあるのか、どことなくふにゃっと頼りなげな口調になっている。瑞月は空いていた俺の隣に、当たり前のように腰を下ろした。

「今までは『女の子』だったのが、素敵な女性になったってことよ。ねぇ、諒?」

くすくすと笑いながら、凜が俺に同意を求めるように話を振った。

ね、って、俺に何を言わせたいんだ。さすが瑞月の従兄、意地悪なやつだ……。

心の中で舌打ちしたが、しかし顔には笑みを刻んで俺は言う。

「凛の言う通りだよ。そういや、栞からブーケもらってたよな。近い将来の瑞月のウェディングドレス姿が楽しみだ」

凛が微かに眉を潜めたのが分かったが、今の俺にはこんな風にしか言えない。彼女の心を俺の方に傾けさせるような甘い言葉などすぐには思い浮かばない。酒の席で本心を紛れ込ませた言葉を口にしたところで、きっと冗談にしか聞こえない。それ以前に、瑞月には結婚を意識している恋人がいる。

凛の言う通り、まったく今さらだよな――。

嬉しそうに凛と話している瑞月の横顔を、俺は苦しい思いを隠して眺めていた。
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