積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
この日、私は備品やら消耗品の在庫確認のために、ひんやりとした倉庫に来ていた。ここは半地下になっているが、上の方に明り取り用の窓があって、今日のように晴れている日などは電気をつけなくても辺りの様子がよく見える。

「注文が必要なものは、そんなにはなさそうね」

つぶやきながら、私はクリップボードに挟んだ一覧表に目を落とした。それから、物がぎゅうぎゅうに、あるいは乱雑に詰まった棚の間を歩き回りながらつぶやく。

「これ、少し片づけないとまずいんじゃないかな」

上司にも報告しておこうか――。

そう思いながら、出入り口に足を向けようとした時だった。人が入ってくる気配がした。棚の隙間から覗いた先に見えたのは、恋人の将司だった。私が今いる場所と対角線上にある柱と棚の陰に、足を向けた。

嬉しくなって声をかけようとしたが、私はすぐに立ち止まった。

また少しして扉が再び開き、もう一人、誰かが入って来たのだ。

密やかな女性の声が聞こえた。

「多田さん?」

将司の静かな声が聞こえた。

「こっち」

女性は将司がいるはずの一角に向かった。

そこから、ひっそりと会話がもれ聞こえて来て、私は息を殺して聞き耳を立てた。

「ねぇ、今夜、会えませんか?会いたいんです」

「幸恵さん、俺はもう会わないって言ったはずだ。それなのに、最後にもう一度だけ会って話をしたら諦めるからと言って、ここに呼び出したのは君だよね。だから来ただけだ。もういいだろう。戻るよ」

その名前に聞き覚えがあった。今年の春から私と入れ違いに営業部に配属された派遣スタッフの人だったはずだ。年は、私よりも二歳年上だったと記憶している。
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