積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「やめてくれ……」

ぱしっと何かを払いのけるような音と将司の声がした。

「戻るよ」

将司の冷たく低い声が聞こえ、その後に続いて倉庫の扉の開閉音が鳴った。

「絶対に諦めない……」

幸恵は恨みがましい固い声を残して、倉庫から出て行った。

その場に静けさが戻ったことを確かめて、私はようやく息をついた。息苦しい胸元を抑えながら、崩れ落ちるようにその場に座り込む。

今のはいったい何なの……。

信じられないと思いながらも、私はすでに理解していた。棚につかまりながらのろのろと立ち上がって倉庫を出ると、一番近くのトイレに入った。

まだ業務時間内なんだから、どうにかして気持ちを落ち着かせないと……。

とんでもない状況に遭遇したばかりだというのに、仕事だからと冷静になろうとしている自分に嗤えてしまった。私はスカートのポケットに入れていた携帯を取り出し、震えが残る冷えた指で将司にメッセージを送った。

『今日は会える?』

将司から返信があったのは、就業時間を過ぎて会社を出てからのことだった。

『すぐに気づかなくてごめん。今夜は同僚たちに飲みに誘われてしまった。明日なら大丈夫だよ』

私はこう返した。

『話したいことがあるから、明日あなたの部屋で待っています』

『分かった。また明日』

今までなら、そんな何気ないやりとりにも気持ちが和らいだものだが、今はなんの感情も起きない。私は淡々と携帯をバッグの中に仕舞った。
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