積年愛に囚われて〜兄的幼馴染は秘め続けていた想いを開放したい〜
「どうしたの。今日の瑞月、なんか怖いんだけど」

「怖い、かしら」

「あぁ、怖い。いつもと全然違う」

将司は眉をひそめ、やや緊張した面持ちで私の対面に腰を下ろした。

私は彼の目を真っすぐに見ると、単刀直入に話を切り出した。

「幸恵さんとはどういう関係なの?」

「な、何だよ、急に……」

本人は平静を保とうとしていたようだったが、それは失敗していた。明らかに動揺しているのが分かるほど、声が震えている。

「確認だけど、私たちって、付き合っているのよね?そうだとすると、将司さんは浮気をしたということになるのかしら?」

将司の目が泳いだ瞬間を、私は見逃さなかった。

「見てしまったの。昨日の午後。倉庫で、将司さんが女の人と一緒にいるところを。あれは別れ話だったのかしら?……ねぇ、将司さん。私と付き合っているのに、あの人に手を出したということなの?あんなにも抱いてくれたのに、って言っているのが聞こえたわ」

「っ!」

将司の顔がみるみる青ざめた。

「いたのか、あの時……」

「否定、しないのね」

「あ……」

私は膝の上で拳を握りながら、ゆっくりと瞬きをした。

「別れるわ。合鍵は返します」

私はテーブルの上に、鍵を置いた。

「あなたと過ごした時間は早く忘れるように努力しようと思う。いつかはあなたと結婚するのかも、なんて夢を見ていたこともあったけど、それが夢で終わって良かったのかもしれないわね。……とにかくそういうことだから。将司さん、今までありがとう」
< 96 / 242 >

この作品をシェア

pagetop