不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
「ちょっと待った。ここのスロープになぜ段差を入れるんだ?」
図面をチェックしに来た黒瀬さんが後ろから覗き込んで、私の手を止めさせた。
またかと思いながら、私は答える。
昂建設計ではここまでチェックは厳しくなかった。あまりに指摘事項が多いので、時間もないのに、いちゃもんをつけられている気分になった。
つい態度に出しそうになりながら答える。
「石を貼るので、十ミリの段差ができます」
「なぜ石を貼る?」
「滑り止めと見栄えです」
「見栄え、ね。勾配は……四度か。1/15を取れてないな」
スロープ勾配は1/15以下が望ましいのは知っている。でも、その勾配を取るにはスペースが足りない。私は最大限で傾斜をゆるやかにしたつもりだった。
「ちゃんと基準はクリアしています!」
不満げに言うと、黒瀬さんはいつものように口端を曲げた。でも、めずらしく目が笑っていない。彼は軽い口調で言った。
「ふぅ~ん。昂建設計では机上の空論を教えてるってわけか。だから、コンペに勝てないんだよ」
「なっ!」
けなされて、カッと頭に血が上った。
私のことだけじゃなく自社のことまで言われる筋合いはない。
「たかが0.2度の違いでなんでそこまで言われないといけないんですか!」
いらついて叫んだ。
やっぱりこの人嫌いだわと思いながら。
黒瀬さんは皮肉な笑みを崩さず、尋ねてきた。
「これはなんのためのスロープだ?」
「車椅子やベビーカーが通るための……」
「そうだ。わかってるけど、わかってないんだな」
あきれた表情をされて、むっとする。そんなにこだわるところだろうかと思ったのだ。
上から目線なのもむかついた。そりゃあ、彼からしたら、私はひよっこだろうけど。
「だから、ちゃんとバリアフリー法の基準は守ってます!」
「最低限の、な。……まぁ、いい。ちょっとついてこい」
黒瀬さんはいきなり車のキーを取り、上着をはおって、外出しようとする。
時間がないのに、出かけてる暇はないと思い、私は呼び止める。
「ちょ、設計はどうするんですか!」
「そんなに時間はかからない。池戸、少し出てくる」
「はい、いってらっしゃい!」
そっけなく告げて、黒瀬さんはさっさと外へ行ってしまう。
私は慌ててその後を追いかけた。
図面をチェックしに来た黒瀬さんが後ろから覗き込んで、私の手を止めさせた。
またかと思いながら、私は答える。
昂建設計ではここまでチェックは厳しくなかった。あまりに指摘事項が多いので、時間もないのに、いちゃもんをつけられている気分になった。
つい態度に出しそうになりながら答える。
「石を貼るので、十ミリの段差ができます」
「なぜ石を貼る?」
「滑り止めと見栄えです」
「見栄え、ね。勾配は……四度か。1/15を取れてないな」
スロープ勾配は1/15以下が望ましいのは知っている。でも、その勾配を取るにはスペースが足りない。私は最大限で傾斜をゆるやかにしたつもりだった。
「ちゃんと基準はクリアしています!」
不満げに言うと、黒瀬さんはいつものように口端を曲げた。でも、めずらしく目が笑っていない。彼は軽い口調で言った。
「ふぅ~ん。昂建設計では机上の空論を教えてるってわけか。だから、コンペに勝てないんだよ」
「なっ!」
けなされて、カッと頭に血が上った。
私のことだけじゃなく自社のことまで言われる筋合いはない。
「たかが0.2度の違いでなんでそこまで言われないといけないんですか!」
いらついて叫んだ。
やっぱりこの人嫌いだわと思いながら。
黒瀬さんは皮肉な笑みを崩さず、尋ねてきた。
「これはなんのためのスロープだ?」
「車椅子やベビーカーが通るための……」
「そうだ。わかってるけど、わかってないんだな」
あきれた表情をされて、むっとする。そんなにこだわるところだろうかと思ったのだ。
上から目線なのもむかついた。そりゃあ、彼からしたら、私はひよっこだろうけど。
「だから、ちゃんとバリアフリー法の基準は守ってます!」
「最低限の、な。……まぁ、いい。ちょっとついてこい」
黒瀬さんはいきなり車のキーを取り、上着をはおって、外出しようとする。
時間がないのに、出かけてる暇はないと思い、私は呼び止める。
「ちょ、設計はどうするんですか!」
「そんなに時間はかからない。池戸、少し出てくる」
「はい、いってらっしゃい!」
そっけなく告げて、黒瀬さんはさっさと外へ行ってしまう。
私は慌ててその後を追いかけた。