不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
「終わった……」

 図面の修正が完了したのは、日曜の十二時三十一分だった。
 目標から少し足が出たけど、許容範囲だ。

「お疲れ。ありがとな」

 黒瀬さんが慰労してくれる。
 そういう彼のほうも眼精疲労からか、いつも以上に目つきが鋭く、無精ひげが生えている。
 それがやけにセクシーに見えて、思わず彼に手を伸ばそうとしてしまう。すぐ思いとどまって、ぶんぶんと首を振った。

(寝不足で頭がおかしくなってるわ!)

 終わったと思うと、どっと疲れが出てしまって、頭が働かない。彼に触れたいと思うなんて、疲れすぎだ。

「仮眠室で寝てこい。あとはやっとくから。あぁ、シャワーを浴びたければ、風呂を使っていいぞ。Tシャツぐらいは貸してやる」
「……ありがとうございます」

 もう限界だった私はこくんとうなずいて、とろとろと螺旋階段を上がっていった。
 地味に階段がきつい。
 そのあとを、黒瀬さんがついてくる。

「風呂場はここだ。ほら、着替えとお泊りセット。せっかく買ってきたんだろ? 仮眠室は出て左だ」

 黒瀬さんがせっせと世話を焼いてくれる。
 考えたら二日もお風呂に入ってない。
 今すぐにでも寝たかったけど、気がついてしまうとお風呂に入らずにはいられない。
 手早く顔と身体を洗って、身ぎれいになった。
 貸してもらったTシャツを素肌に着て、買ってあったショーツを履く。
 化粧水、乳液をつけたところで、もう電池が切れそうで、風呂場を出ると左と言われた部屋に入った。
 大きなベッドがある。
 
(ベッド! どんなに恋しかったことか! ようやく寝れる……!)

 私はベッドに倒れ込み、羽毛布団に潜り込んだ。
 ふわっと嗅いだことのあるシトラス系の匂いがした。
 あれ、と違和感を覚えたけど、それがなぜなのかわからず、私は眠りに落ちようとした。
 なのに。
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