不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
「瑞希……かわいいな」

 黒瀬さんは私のTシャツを捲り上げて、胸を露出させた。恥ずかしくて隠そうとした手を握られ、シーツの上に縫い留められる。彼の口端は上がり、笑みを浮かべてはいるが、その目は情欲にぎらついていて、余裕のなさそうな表情がさらに私の官能を煽った。
 求められてると感じるとうれしくなって、私は彼の手を握り返した。

 黒瀬さんに何度も貪られて、私はぐったりした。
 身体が気持ちよくなりすぎて、力が入らない。
 情事の余韻でぼんやりしている私を彼は甘やかに見て、髪を梳くように撫でる。そして、こめかみに口づけて、満足そうに笑った。

「腹減っただろう? なにか作ってやるから、寝てろ」
「黒瀬さん、料理できるんですか?」
「独り暮らしが長いから、一通りのことはできる」
「すごいですね。私も独り暮らしですが、ぜんぜん上手になりません……」
「じゃあ、俺が餌付けしてやるかな」

 私の頭をまた撫でて、黒瀬さんが起き上がった。電気をつける。
 引き締まった筋肉質の身体が美しい。
 さっきまでそれどころじゃなくてよく見てなかったけど、明るい中、しっかり目に入ってしまって、顔を赤らめた。
 ジャージを着た黒瀬さんは機嫌よさそうに部屋を出ていった。

(何時だろう?)

 一人残された私は時計を探す。
 壁に数字だけが貼りついたような時計を見つける。
 二十三時八分。
 十三時半ぐらいに寝たと思うので、ほぼ十時間寝ていたようだ。
 あ、でも、黒瀬さんと……の時間もあるから、もう少し短いかもしれない。
 先ほど身に受けた熱を反芻してしまって、悶える。

(黒瀬さんはどういうつもりなの……?)
 
 自分のベッドに私がいたから、抱いただけかもしれない。
 浮名を流す彼にとってはよくあること?
 だいたい彼の気持ちどころか、自分の気持ちも定かでない。
 どうして私は抱かれたんだろう?
 自分でもわからない。
 のろのろと起き上がり、Tシャツを着る。
 
「服!」

 お風呂場に服を脱ぎっぱなしだったことを思い出して、慌てて、浴室に向かおうとした。
 そこへちょうど黒瀬さんが戻ってきて、私を見て片眉を上げ、腰を引き寄せた。
 私を捕まえた黒瀬さんはじっと私の目を見て言った。

「瑞希、飯を食べたくないのか?」
「え、食べたいです!」
「そんな恰好してると、もう一度お前を食べたくなるだろ」

 押しつけられた身体が熱い。
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