不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

好き

 結局、この人は女好きなんかじゃなくて、ただ面倒見のいい人だった。
 それを私を含めて周囲が勝手な印象を持っていただけだ。
 ふいに想いがあふれて、伝えたくなる。
 黒瀬さんを責めたくせに自分の想いは言ってなかったことに気がついたのだ。

「黒瀬さん……」
「ん?」
「好き」

 そのときの彼の反応は見ものだった。
 黒瀬さんは額に片手を当て、顔を隠して横を向いた。でも、指の隙間から、頬が赤くなっているのが見えた。
 なんと照れてるらしい。あの黒瀬さんが!
 それは老人ホームで見せた様子と似ていた。

「あー、うん、俺も好きだ」

 照れながらもそう言ってくれて、うれしくなった私は彼にしがみついた。
 顔を覗き込んで、聞いてみる。

「老人ホームでも照れてましたよね? なんでですか?」

 私の視線に彼は目を逸らしながらも教えてくれた。

「瑞希が褒めてた施設は前の会社時代に俺が携わったものだったんだ。まさに来た人に驚きと楽しさを伝えたかったから、それが伝わってたんだなと思って感動した。建築家冥利に尽きるよな」
「あれも黒瀬さんの作品だったんですか!?」
「もちろん全体を担当したわけじゃないけどな。まだ経験も浅いうちだったし。でも、初めてコンペで勝った案件だったから、思い入れがある施設だ」

 昔から彼の建築に惹かれていたのを知って、驚いた。
 さらに黒瀬さんが続けた話に今度は私が赤くなった。

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