不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
 帰社する道すがら、山田主任がぼそっとつぶやく。

「あいつは勝つためなら手段を選ばないからなぁ」
「え? どういうことですか?」

 含みのある主任の言葉に、私は聞き返した。

「黒瀬はいつも施主側の女性に近づいては、情報を引き出したり自分のところを優遇するよう働きかけたりしてるんだ。枕営業みたいなものだな。神野リゾートの社長令嬢とも深い仲らしい。今日のコンペは最初から結果が決まってたのかもな」
「なんですか、それ! こっちは一生懸命に準備したのに!」

 主任は黒瀬さんが独立する前に働いていた設計事務所の同期だったから、彼のことに詳しい。たまに、こうして彼のことを話す。やっかみが入っているのは否めないが、それが本当だとしたら腹立たしい。
 そう言われてみれば、神野リゾートの女性と黒瀬さんはやけに親しげだった。あれが社長令嬢だったのかしら? 前のコンペのときも施主側の女性がやたらと彼に話しかけていた。
 施主の希望を細かく知っていたら、コンペに有利だろう。それどころか、審査する側に根回しされていたとすれば、勝てるはずがない。
 もともと黒瀬さんには苦手意識があったけど、それを聞いてますます嫌いになる。

(設計と人格は別物なのね)
 
 少なくとも、設計に対しては真摯だと思っていたので見損なった。
 それなのに、その翌週、部長に呼ばれて驚く。
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