不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
「山田は同じ案件に携わってもらうが、こっちで構造設計をしてもらう」
「こっちでとは?」
「あぁ、君は黒瀬くんの事務所に出向して、意匠設計をしてもらいたい」
「出向ですか!?」

 思ってもみなかった話に私は驚いて聞き返す。
 私が気乗りしていないのを感じたようで、部長がなだめるように言ってきた。

「君にとっても勉強になると思うぞ? 一流の建築家について学ぶことのできる機会なんて、そうそうないからな」
「そう……ですよね」

 実際、すごいチャンスだと思う。
 でも、私は彼のニヤニヤ笑いを思い浮かべて顔をしかめてしまう。彼を見ていると、心が乱れる。
 とはいえ、部長の様子から決定事項だと感じて、しぶしぶうなずいた。
 コンペで負けた私たちのチームは一時的に暇だったのだ。辞令とあらば、受け入れるしかない。
 
「じゃあ、明日から彼の事務所に行ってくれ」
「明日からなんて急ですね」
「施主の希望で工期が早まったそうだ。だから、より一層設計の手が足りないらしい」
「承知しました」

 それならなおさら私よりベテランがもっといるのにという疑問が拭えない。

(まぁ、いいわ。やるからには頑張ろう)
 
 モヤモヤしていても仕方ないので、自分を鼓舞する。
 憧れの大型商業施設の設計なのだ。そう思うとテンションが上がる。
 こうして、私は翌日からコク建築設計へと出勤することになった。
< 6 / 37 >

この作品をシェア

pagetop