私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~
第二部・終章
終章
ずっと、誰かに会いたかった。
名前はフラン。母さんはカスミ、父さんはメイズ。俺の名前は、母さんがつけた。
本当は別の名前を持っているのだそうだけれど、それはいつか教えてくれるらしい。
生まれは緑の海域。けど、育ちは赤の海域。母さんの友達がいて、俺を育てるのに協力してくれた。いつも誰かがいたから、俺はあまり寂しいと思ったことが無い。四大海賊とかいう偉い人たちが遊びに来たこともあって、母さんの交友関係は謎だった。
父さんはあまり家にいなかった。父さんは、黒の海域をまとめる仕事をしているのだそうだ。セントラルとの橋渡しをして、ゴミ溜めのようだった地区を、少しずつ整備しているらしい。立派な仕事だ、と母さんは言うけれど、俺は黒の海域に行ったことが無いので、よくわからない。
俺は、生まれた時は、母さんと同じ黒い髪と黒い瞳をしていた。それが十になる頃、突然目が赤くなった。そのことで、母さんと父さんは一時もめたらしい。母さんは未だに根に持っている。
母さんとも父さんとも違う色だから、俺は不安になって、二人の子どもではないのではないか、と聞いてしまったことがある。母さんは俺を宥めて、それは魂の色なのだと教えてくれた。理屈はわからなかったが、時が来たら教えてくれるとのことだった。
十五になる頃、俺は旅に出ることにした。
誰かを、探しに行きたかった。
誰かはわからない。何故かもわからない。ただ、ずっと誰かを探している気がした。己の半身が欠けているような感覚が、常にあった。
それを両親に告げると、母さんは泣いて喜んだ。父さんは、死なない程度で帰ってこい、と言った。
母さんは、俺に黒い指輪と、コンパスを渡した。その誰かを探すのに、きっと役に立つと。指輪なんて初めてつけたのに、それはなんだかひどく指に馴染んだ。
それから五年ほど旅をした。誰かには、まだ会えていない。
顔も名前もわからない。それで探しようがあるわけがない。それでも何故か、諦められなかった。
新しい島に着いて、コンパスを眺めた。こちらを指していたが、さてどうか。
針路は、母さんに聞いた通り、たまにコンパスを指に刺しては、それが示す方へ向かっている。
何も無さそうな島だ。広大な畑が広がっている。農業が主体の島なのだろうか。
作物が豊かなら、食べる物には困らなそうだ。食料が行き渡っているのなら、争いは少ないだろうと目を細めた。
軽い足音がした。誰かが駆けてくる、と思っていると。
「きゃっ!」
突然、女がぶつかってきた。
女の持っていた果物が散らばる。抱えすぎて、前が見えていなかったらしい。
「ご、ごめんなさい。だいじょうぶで……」
その女の姿を認めた途端、俺は女を抱き締めた。
「え、ええっ!? ちょっと、何ですか!?」
慌てた女は俺を引き剥がそうとしたが、
「……泣いて、るんですか?」
答えられなかった。涙が止まらなかった。
会いたかった。会いたかった。それ以外に、何も浮かばない。
女は暫く戸惑ったようにしていたが、迷った末、ためらいがちに俺の背に手を回した。
「なんでかな。わたし、あなたのこと知ってる気がする。ね、わたしマリアっていうの。あなたは?」
「…………フラン。今は」
「今は? 昔は違ったの?」
「フランツ、と呼んでくれないか」
「え……でも、その名前って」
「頼む」
フランツは悪魔として有名な名前だ。子どもにつける親はまずいない。
けれど。彼女には、そう呼んでほしい。ああ、これが魂の名前なのかもしれない、と母さんの言葉を思い出していた。
「……わかったわ。フランツ」
「――……マリア」
もう二度と。離れない。
今生こそ、君と共に。
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最後まで読んでいただきありがとうございます。
もし気に入っていただけましたら、是非いいね等いただけますと大変嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
名前はフラン。母さんはカスミ、父さんはメイズ。俺の名前は、母さんがつけた。
本当は別の名前を持っているのだそうだけれど、それはいつか教えてくれるらしい。
生まれは緑の海域。けど、育ちは赤の海域。母さんの友達がいて、俺を育てるのに協力してくれた。いつも誰かがいたから、俺はあまり寂しいと思ったことが無い。四大海賊とかいう偉い人たちが遊びに来たこともあって、母さんの交友関係は謎だった。
父さんはあまり家にいなかった。父さんは、黒の海域をまとめる仕事をしているのだそうだ。セントラルとの橋渡しをして、ゴミ溜めのようだった地区を、少しずつ整備しているらしい。立派な仕事だ、と母さんは言うけれど、俺は黒の海域に行ったことが無いので、よくわからない。
俺は、生まれた時は、母さんと同じ黒い髪と黒い瞳をしていた。それが十になる頃、突然目が赤くなった。そのことで、母さんと父さんは一時もめたらしい。母さんは未だに根に持っている。
母さんとも父さんとも違う色だから、俺は不安になって、二人の子どもではないのではないか、と聞いてしまったことがある。母さんは俺を宥めて、それは魂の色なのだと教えてくれた。理屈はわからなかったが、時が来たら教えてくれるとのことだった。
十五になる頃、俺は旅に出ることにした。
誰かを、探しに行きたかった。
誰かはわからない。何故かもわからない。ただ、ずっと誰かを探している気がした。己の半身が欠けているような感覚が、常にあった。
それを両親に告げると、母さんは泣いて喜んだ。父さんは、死なない程度で帰ってこい、と言った。
母さんは、俺に黒い指輪と、コンパスを渡した。その誰かを探すのに、きっと役に立つと。指輪なんて初めてつけたのに、それはなんだかひどく指に馴染んだ。
それから五年ほど旅をした。誰かには、まだ会えていない。
顔も名前もわからない。それで探しようがあるわけがない。それでも何故か、諦められなかった。
新しい島に着いて、コンパスを眺めた。こちらを指していたが、さてどうか。
針路は、母さんに聞いた通り、たまにコンパスを指に刺しては、それが示す方へ向かっている。
何も無さそうな島だ。広大な畑が広がっている。農業が主体の島なのだろうか。
作物が豊かなら、食べる物には困らなそうだ。食料が行き渡っているのなら、争いは少ないだろうと目を細めた。
軽い足音がした。誰かが駆けてくる、と思っていると。
「きゃっ!」
突然、女がぶつかってきた。
女の持っていた果物が散らばる。抱えすぎて、前が見えていなかったらしい。
「ご、ごめんなさい。だいじょうぶで……」
その女の姿を認めた途端、俺は女を抱き締めた。
「え、ええっ!? ちょっと、何ですか!?」
慌てた女は俺を引き剥がそうとしたが、
「……泣いて、るんですか?」
答えられなかった。涙が止まらなかった。
会いたかった。会いたかった。それ以外に、何も浮かばない。
女は暫く戸惑ったようにしていたが、迷った末、ためらいがちに俺の背に手を回した。
「なんでかな。わたし、あなたのこと知ってる気がする。ね、わたしマリアっていうの。あなたは?」
「…………フラン。今は」
「今は? 昔は違ったの?」
「フランツ、と呼んでくれないか」
「え……でも、その名前って」
「頼む」
フランツは悪魔として有名な名前だ。子どもにつける親はまずいない。
けれど。彼女には、そう呼んでほしい。ああ、これが魂の名前なのかもしれない、と母さんの言葉を思い出していた。
「……わかったわ。フランツ」
「――……マリア」
もう二度と。離れない。
今生こそ、君と共に。
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