私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~
取引
そろそろアルメイシャに着く、という報告を聞いて、奏澄は逸る心を抑えきれずにそわそわとしていた。早く会いたい、という気持ちと、戻ってきた自分をどう思うだろうか、という少しの不安と。けれど、きっと仲間たちは。残る選択をした奏澄を責めたりはしない。それより、メイズとのことを何と言おうか。ずっと一緒だった仲間に恋愛面の話をするのは、何やら気恥ずかしい。
くるくると百面相をする奏澄を、メイズは面白そうに眺めていた。
アルメイシャの港にコバルト号を泊めると、まず雇っていた水夫たちに賃金を渡す。彼らとはここまでの契約だ。ドロール商会に行けば、かつての仲間が再び船に乗ってくれるかもしれない。それが叶わなくとも、別の人員を貸してもらえるかもしれない。もし無理だったとしても、アルメイシャには人が集まっている。改めて水夫を雇うことは可能だろう。
ハリソンに船の留守を任せ、奏澄とメイズの二人でドロール商会の建物へと訪れる。しかしそこで二人は、予想だにしない事態に直面する。
「閉鎖……!?」
ドロール商会の建物にはロープが張られ、出入口は厳重に封鎖されていた。事業をたたんだ風ではない。明らかに、無理やり閉められている。
これはいったいどういうことなのか。ギルドにでも問い合わせればわかるだろうか。しかし、ドロール商会はギルドには加盟していない。
呆然と立ち尽くす奏澄に、離れた所から声がかかった。
「なぁ、おい! あんた、もしかしてカスミか!?」
名前を呼ばれて振り返ると、奏澄は動きを止めた。
そこにいたのは、燃えるような赤い髪を逆立てた男だった。印象的な三白眼に、開いた口からは八重歯が見える。彼自身の容姿も充分に特徴的だが、奏澄が固まった理由は別にある。
何故、半裸。
男はだぼっとした赤のサルエルパンツを身につけていたが、上半身には何も着ていなかった。筋骨隆々、という言葉が相応しい肉体が惜しげもなく晒されている。いくら温暖な気候のアルメイシャとはいえ、街中でこれは無い。
警戒心を露わにする奏澄を背に隠すように、メイズが立ちはだかった。
「朱雀の、ロッサか」
「おう、そっちはメイズか」
ロッサ。その名には聞き覚えがある。赤の海域を拠点に活動している、四大海賊の一角。朱雀海賊団の船長だ。四大海賊の中では、一番年若い。とは言ってもメイズより上のはずなのだが、溌剌とした印象から若々しく見える。
そんな人物が、何故奏澄を知っているのか。
「あー、そう警戒すんな。お前ら、マリーに会いに来たんだろ?」
「マリーの居場所をご存じなんですか!?」
メイズの背から顔を出して、奏澄が問いかける。マリーと面識があるのなら、信頼できる人物かもしれない。
「ご存じっつーか、そのために来たっつーか」
がりがりと頭をかいて、ロッサは顔を歪めた。
「ドロール商会は、セントラルから業務停止命令を受けた。それが不当なものだっていうんで、オレたちが交渉するはずだったんだが……一歩遅かったな。抵抗したって名目で、マリーたちはセントラルに連れていかれた」
「そんな……」
奏澄は言葉を失った。それはつまり、セントラルに捕まったということ。
青い顔をする奏澄の代わりに、メイズが質問を続けた。
「何があった。セントラルから直々に業務停止命令となれば、その前に何かしら問題があったんだろ」
「それがわっかんねーんだよ。突然、言いがかりに近い形でな。正式な手続きも踏まずに、無理やりだ。オレたちも黙ってはいられないから、セントラルに抗議をしに行くつもりだ」
「私も行きます!」
間髪入れずに、奏澄は言い募った。自分を見上げる小さな船長に、ロッサは目を細めて笑った。
「あんた、マリーから聞いてた通りの奴だな」
「え?」
「んにゃ、いいと思うぜーそういうの」
奏澄の頭に手を伸ばしたロッサだったが、メイズが奏澄の体を引いたので空振った。
「……そっちも、聞いてた通りだ」
半眼で零すロッサを、メイズは無言で睨んだ。
「こっちはすぐ動ける。出発はそっちに合わせるぜ」
「こちらも、補給が済み次第すぐ……あ」
言って、思い出す。ついセットで考えていたが、よく考えたらライアーはドロール商会のメンバーではない。彼は、まだこの島にいるのではないだろうか。
「えっと、航海士のライアーがどうしているか、ご存じですか?」
「ああ、あいつは自主的にマリーにくっついてったらしい」
その言葉に、奏澄はほっとした。セントラルに捕まっているという状況は決して楽観視できるものではないが、マリーとライアーが一緒にいるのなら、少しは安心だ。
「では、すぐに準備します」
「おう。船の方は、朱雀からも人を貸すぜ」
「助かります、よろしくお願いします」
水夫の手配はしなくて済みそうだ。不安を掻き消すように、奏澄はしなければならないことを頭に浮かべた。
くるくると百面相をする奏澄を、メイズは面白そうに眺めていた。
アルメイシャの港にコバルト号を泊めると、まず雇っていた水夫たちに賃金を渡す。彼らとはここまでの契約だ。ドロール商会に行けば、かつての仲間が再び船に乗ってくれるかもしれない。それが叶わなくとも、別の人員を貸してもらえるかもしれない。もし無理だったとしても、アルメイシャには人が集まっている。改めて水夫を雇うことは可能だろう。
ハリソンに船の留守を任せ、奏澄とメイズの二人でドロール商会の建物へと訪れる。しかしそこで二人は、予想だにしない事態に直面する。
「閉鎖……!?」
ドロール商会の建物にはロープが張られ、出入口は厳重に封鎖されていた。事業をたたんだ風ではない。明らかに、無理やり閉められている。
これはいったいどういうことなのか。ギルドにでも問い合わせればわかるだろうか。しかし、ドロール商会はギルドには加盟していない。
呆然と立ち尽くす奏澄に、離れた所から声がかかった。
「なぁ、おい! あんた、もしかしてカスミか!?」
名前を呼ばれて振り返ると、奏澄は動きを止めた。
そこにいたのは、燃えるような赤い髪を逆立てた男だった。印象的な三白眼に、開いた口からは八重歯が見える。彼自身の容姿も充分に特徴的だが、奏澄が固まった理由は別にある。
何故、半裸。
男はだぼっとした赤のサルエルパンツを身につけていたが、上半身には何も着ていなかった。筋骨隆々、という言葉が相応しい肉体が惜しげもなく晒されている。いくら温暖な気候のアルメイシャとはいえ、街中でこれは無い。
警戒心を露わにする奏澄を背に隠すように、メイズが立ちはだかった。
「朱雀の、ロッサか」
「おう、そっちはメイズか」
ロッサ。その名には聞き覚えがある。赤の海域を拠点に活動している、四大海賊の一角。朱雀海賊団の船長だ。四大海賊の中では、一番年若い。とは言ってもメイズより上のはずなのだが、溌剌とした印象から若々しく見える。
そんな人物が、何故奏澄を知っているのか。
「あー、そう警戒すんな。お前ら、マリーに会いに来たんだろ?」
「マリーの居場所をご存じなんですか!?」
メイズの背から顔を出して、奏澄が問いかける。マリーと面識があるのなら、信頼できる人物かもしれない。
「ご存じっつーか、そのために来たっつーか」
がりがりと頭をかいて、ロッサは顔を歪めた。
「ドロール商会は、セントラルから業務停止命令を受けた。それが不当なものだっていうんで、オレたちが交渉するはずだったんだが……一歩遅かったな。抵抗したって名目で、マリーたちはセントラルに連れていかれた」
「そんな……」
奏澄は言葉を失った。それはつまり、セントラルに捕まったということ。
青い顔をする奏澄の代わりに、メイズが質問を続けた。
「何があった。セントラルから直々に業務停止命令となれば、その前に何かしら問題があったんだろ」
「それがわっかんねーんだよ。突然、言いがかりに近い形でな。正式な手続きも踏まずに、無理やりだ。オレたちも黙ってはいられないから、セントラルに抗議をしに行くつもりだ」
「私も行きます!」
間髪入れずに、奏澄は言い募った。自分を見上げる小さな船長に、ロッサは目を細めて笑った。
「あんた、マリーから聞いてた通りの奴だな」
「え?」
「んにゃ、いいと思うぜーそういうの」
奏澄の頭に手を伸ばしたロッサだったが、メイズが奏澄の体を引いたので空振った。
「……そっちも、聞いてた通りだ」
半眼で零すロッサを、メイズは無言で睨んだ。
「こっちはすぐ動ける。出発はそっちに合わせるぜ」
「こちらも、補給が済み次第すぐ……あ」
言って、思い出す。ついセットで考えていたが、よく考えたらライアーはドロール商会のメンバーではない。彼は、まだこの島にいるのではないだろうか。
「えっと、航海士のライアーがどうしているか、ご存じですか?」
「ああ、あいつは自主的にマリーにくっついてったらしい」
その言葉に、奏澄はほっとした。セントラルに捕まっているという状況は決して楽観視できるものではないが、マリーとライアーが一緒にいるのなら、少しは安心だ。
「では、すぐに準備します」
「おう。船の方は、朱雀からも人を貸すぜ」
「助かります、よろしくお願いします」
水夫の手配はしなくて済みそうだ。不安を掻き消すように、奏澄はしなければならないことを頭に浮かべた。