私の海賊さん。~異世界で海賊を拾ったら私のものになりました~
朱雀の船、レッド・フィアンマ号と並び、コバルト号はセントラルへ向けて出航した。
セントラルまでの航海中、詳しい事情を聞くため、奏澄はロッサをコバルト号へ招いた。
応接室に案内する際、供の者を連れてくるかと思ったが、ロッサは一人で来た。よその海賊船で、船長が一人で行動して良いのかと一応確認したところ。
「なんでだ?」
と逆に首を傾げられた。ロッサにとっては、奏澄たちは敵でないと認識されているのか、敵だったとしても取るに足らない相手だと思われているのか。
ロッサが気にしないのなら、それ以上言うことも無い。コバルト号には、朱雀の乗組員も作業員として同乗している。付いてこないということは、乗組員たちもロッサを一人にして構わないと思っているのだろう。そういえば、ドロール商会の前で会った時もロッサは一人だった。心配する素振りもないので、彼の強さへの信頼があると見える。
応接室には、ロッサ、奏澄、メイズ、ハリソンの四人が揃っていた。
「どうぞ」
奏澄が淹れた紅茶を出すと、ロッサはまじまじとそれを見つめた。
「あの、何か?」
「いや、随分シャレたもんが出てくるなーと」
普通こういうことはしないのだろうか、と奏澄は焦った。招いた側であるので、もてなすのは当然と思っていたが。これから話し合いをするというのに、酒を出すわけにもいかない。
ロッサはカップに手をかけると、一気にそれを呷った。
「うん、うまいな!」
にかっと笑ったロッサに、奏澄はほっとして、自分も一口紅茶を口に含んだ。
この人の笑顔は太陽の気配がする。側にいると暖かい。少々暑すぎる気もするが。キッドともエドアルドとも違った魅力のある船長だ。
「改めて話……つっても、本当に詳しいことはよくわからん。島に残っていた商会の連中に聞いたが、あいつらもちゃんとした説明は受けてないみたいだ。一部が連れていかれて、残りは謹慎状態」
顔を顰めたロッサに、奏澄は視線を落とした。何も情報が無い状態でセントラルと対峙するのは不安だが、わからないことを考えても仕方ない。
「ただまぁ、気になることはある」
確証の無い言い方だが、少しでも情報が欲しい。奏澄は視線で先を促した。
「どうもな、他の海域でも、突然人がセントラルに連れてかれたっつー話があるらしい」
「他の、海域?」
「別に情報共有とかしてねーんだけどよ。アンリもそれで動いてる、って小耳に挟んだんだよなぁ」
アンリ。それは緑の海域を拠点にしている、青龍海賊団の船長の名だ。
緑の海域から、誰が。嫌な予感とともに、アントーニオやラコットたちの顔が浮かぶ。
「まー、頭使うようなことはアンリが考えてるだろ。オレはとりあえず正面から乗り込むつもりだけどよ」
それはそれで大丈夫なのだろうか。奏澄が不安げな顔をしていると、ハリソンが口を開いた。
「セントラルは表向き、四大海賊を敵に回すようなことはしてきませんでした。ドロール商会はギルド非加盟ですから、朱雀の庇護下にあることはわかっているはずです。青龍の方も、目に余る行動があったから動いているのでしょう。それを押してでも、強硬手段を取った。これは、呼び出そうとしていると考えるのが自然かもしれません」
「四大海賊をか?」
「いえ」
ハリソンが、気づかうようにして奏澄を見た。
「カスミさん。あなたを、です」
奏澄はがつんと殴られたような衝撃を受けた。手足が震えて、目の前が暗くなる。
「私、の、せい……?」
自分のせいで。かつての仲間たちが、捕らえられているのか。
たんぽぽ海賊団は、実質解散している。その後奏澄は姿を消した。今も繋がっているとは、思っていないはずだ。
だというのに。かつて共にあったというだけで。このように、利用されてしまうのか。
「せいとか言うな!」
怒ったような声に、はっとする。ロッサが、真剣な目で奏澄を見ている。
「仲間なんだろ。そりゃ、迷惑かけたり、かけられたりするだろ。いちいち誰かのせいなんてことあるか。船長のあんたが、そういうこと言うんじゃねぇ!」
大きな声に、メイズが注意しようと口を開きかける。それを奏澄が手で制した。
大丈夫だ、というように微笑んでみせる。
以前怒鳴り声が怖いと言ったから、奏澄が怯えていると思ったのだろう。実際驚いたが、この人の怒り方は怖くない。なんというか、竹を割ったような清々しさがある。
「すみません。ロッサさんの言う通りですね。どんな理由だったとしても、私がすることは変わりません。仲間のことは、必ず助けます。だから大丈夫です」
ハリソンはあくまで可能性を提示しただけで、まだセントラルの狙いが奏澄だと決まったわけじゃない。既にたんぽぽの海賊旗を掲げて航海してはいるが、奏澄がこの世界に戻ったことを把握しているのかどうかすらわからない。
一度出た手配書は、死亡が確認されるまで回収されることはない。奏澄が手配され続けていることは、セントラルが生存を確信していることとイコールではない。
何が目的だったとしても。仲間のことは、絶対に助ける。今回は最初から、朱雀海賊団という心強い味方もいる。きっと、うまくいく。大丈夫だ。
奏澄は自分に言い聞かせるように、ロッサに告げた。それを受けたロッサは、力強く笑ってみせるのだった。
セントラルまでの航海中、詳しい事情を聞くため、奏澄はロッサをコバルト号へ招いた。
応接室に案内する際、供の者を連れてくるかと思ったが、ロッサは一人で来た。よその海賊船で、船長が一人で行動して良いのかと一応確認したところ。
「なんでだ?」
と逆に首を傾げられた。ロッサにとっては、奏澄たちは敵でないと認識されているのか、敵だったとしても取るに足らない相手だと思われているのか。
ロッサが気にしないのなら、それ以上言うことも無い。コバルト号には、朱雀の乗組員も作業員として同乗している。付いてこないということは、乗組員たちもロッサを一人にして構わないと思っているのだろう。そういえば、ドロール商会の前で会った時もロッサは一人だった。心配する素振りもないので、彼の強さへの信頼があると見える。
応接室には、ロッサ、奏澄、メイズ、ハリソンの四人が揃っていた。
「どうぞ」
奏澄が淹れた紅茶を出すと、ロッサはまじまじとそれを見つめた。
「あの、何か?」
「いや、随分シャレたもんが出てくるなーと」
普通こういうことはしないのだろうか、と奏澄は焦った。招いた側であるので、もてなすのは当然と思っていたが。これから話し合いをするというのに、酒を出すわけにもいかない。
ロッサはカップに手をかけると、一気にそれを呷った。
「うん、うまいな!」
にかっと笑ったロッサに、奏澄はほっとして、自分も一口紅茶を口に含んだ。
この人の笑顔は太陽の気配がする。側にいると暖かい。少々暑すぎる気もするが。キッドともエドアルドとも違った魅力のある船長だ。
「改めて話……つっても、本当に詳しいことはよくわからん。島に残っていた商会の連中に聞いたが、あいつらもちゃんとした説明は受けてないみたいだ。一部が連れていかれて、残りは謹慎状態」
顔を顰めたロッサに、奏澄は視線を落とした。何も情報が無い状態でセントラルと対峙するのは不安だが、わからないことを考えても仕方ない。
「ただまぁ、気になることはある」
確証の無い言い方だが、少しでも情報が欲しい。奏澄は視線で先を促した。
「どうもな、他の海域でも、突然人がセントラルに連れてかれたっつー話があるらしい」
「他の、海域?」
「別に情報共有とかしてねーんだけどよ。アンリもそれで動いてる、って小耳に挟んだんだよなぁ」
アンリ。それは緑の海域を拠点にしている、青龍海賊団の船長の名だ。
緑の海域から、誰が。嫌な予感とともに、アントーニオやラコットたちの顔が浮かぶ。
「まー、頭使うようなことはアンリが考えてるだろ。オレはとりあえず正面から乗り込むつもりだけどよ」
それはそれで大丈夫なのだろうか。奏澄が不安げな顔をしていると、ハリソンが口を開いた。
「セントラルは表向き、四大海賊を敵に回すようなことはしてきませんでした。ドロール商会はギルド非加盟ですから、朱雀の庇護下にあることはわかっているはずです。青龍の方も、目に余る行動があったから動いているのでしょう。それを押してでも、強硬手段を取った。これは、呼び出そうとしていると考えるのが自然かもしれません」
「四大海賊をか?」
「いえ」
ハリソンが、気づかうようにして奏澄を見た。
「カスミさん。あなたを、です」
奏澄はがつんと殴られたような衝撃を受けた。手足が震えて、目の前が暗くなる。
「私、の、せい……?」
自分のせいで。かつての仲間たちが、捕らえられているのか。
たんぽぽ海賊団は、実質解散している。その後奏澄は姿を消した。今も繋がっているとは、思っていないはずだ。
だというのに。かつて共にあったというだけで。このように、利用されてしまうのか。
「せいとか言うな!」
怒ったような声に、はっとする。ロッサが、真剣な目で奏澄を見ている。
「仲間なんだろ。そりゃ、迷惑かけたり、かけられたりするだろ。いちいち誰かのせいなんてことあるか。船長のあんたが、そういうこと言うんじゃねぇ!」
大きな声に、メイズが注意しようと口を開きかける。それを奏澄が手で制した。
大丈夫だ、というように微笑んでみせる。
以前怒鳴り声が怖いと言ったから、奏澄が怯えていると思ったのだろう。実際驚いたが、この人の怒り方は怖くない。なんというか、竹を割ったような清々しさがある。
「すみません。ロッサさんの言う通りですね。どんな理由だったとしても、私がすることは変わりません。仲間のことは、必ず助けます。だから大丈夫です」
ハリソンはあくまで可能性を提示しただけで、まだセントラルの狙いが奏澄だと決まったわけじゃない。既にたんぽぽの海賊旗を掲げて航海してはいるが、奏澄がこの世界に戻ったことを把握しているのかどうかすらわからない。
一度出た手配書は、死亡が確認されるまで回収されることはない。奏澄が手配され続けていることは、セントラルが生存を確信していることとイコールではない。
何が目的だったとしても。仲間のことは、絶対に助ける。今回は最初から、朱雀海賊団という心強い味方もいる。きっと、うまくいく。大丈夫だ。
奏澄は自分に言い聞かせるように、ロッサに告げた。それを受けたロッサは、力強く笑ってみせるのだった。