はじめまして、期間限定のお飾り妻です
10話 待ちぼうけ
「リカルド様!」
フットマンは倉庫の扉を開けるも、そこにリカルドの姿はない。いるのは2人の若い男性使用人たちのみだった。
「どうしたんだ?」
「リカルド様ならいないぞ?」
「ええ!? い、いない? どこへ行ったんだ!?」
その言葉にフットマンは目を見開く。
「うん、発注ミスがあった業者の元へ自分で行くと話していたな」
「俺達が行きましょうかと声をかけたんだけど」
「そ、そんな……」
フットマンが壁に寄りかかったとき――
「大変だ! 枯れ葉を集めて燃やしていたら、物置小屋に燃え移ってしまった! 人手が足りないから応援に来てくれ!」
別のフットマンが倉庫に飛び込んできた。
「「「何だって!!!」」」
「大変だ!」
「こうしてはいられない!」
「早く行こう!!」
こうして4人のフットマンたちは火を消す為に、大急ぎで物置小屋へ向かった。
もちろん、その頃にはイレーネの存在が忘れられてしまったのは言うまでもなかった。
**
一方、その頃のイレーネは……
応接間に通されてから、既に2時間が経過していた。始めの頃は、応接間のインテリアを感心した様子で眺めていたイレーネだった。
けれどそれにも飽きてしまい今は一人ソファにぽつんと座り、置き去り状態にされていた。
「それにしても随分時間がかかるのね……やっぱり、突然押しかけてしまったからなのかしら……?」
壁に掛けてある時計を見つめながら、イレーネはため息をついた。
「……喉も乾いたし、お腹も空いてきたわ……こんなことならこのお屋敷に着く前に、どこかで軽く食事でもするべきだったかしら……」
言葉にしてみたもののお金に余裕が無いイレーネに外食など、所詮贅沢でしか無かった。
それよりも今は帰りの汽車の心配のほうが勝っていた。
「どうしましょう……あまり遅くなっては帰りの汽車が無くなってしまうわ。かと言ってホテルに泊まれるはずも無いし……そうなったら図々しいお願いかもしれないけれど、このお屋敷に泊めていただくしか無いわね。頼み込めばきっと何とかなるでしょう」
呑気なイレーネはそう割り切った途端、強烈な眠気に襲われた。
「……何だか、眠くなってきたわ……遅くまで起きて服を仕立てていたから……」
ウトウトしながら、必死で意識を保とうとしたものの……ついにイレーネは背もたれに寄りかかったまま、眠りについてしまった――
****
――午後4時半
「ふぅ……やっと戻れた」
発注業者と話をつけてきたリカルドがようやくマイスター家に戻ってきた。
「お帰りなさいませ。リカルド様」
廊下ですれ違ったフットマンがリカルドに声をかけてくる。
「ただいま。何か留守中変わったことはありませんでしたか?」
「あ……そのことですが、実はちょっとしたボヤ騒ぎがあったのです」
「ボヤ騒ぎ? 本当ですか!? 一体何故そのようなことになったのです?」
リカルドが驚きで目を見開く。
「はい、庭の枯れ葉を集めて燃やしていたのですが……突然突風に煽られて、炎の着いた枯れ葉が物置小屋に飛ばされたのです。あ! でも、大丈夫です。小屋の一部がほんの少し燃えただけで被害は殆どありませんでしたから」
慌てたようにフットマンが説明する。
「そうでしたか……それなら良かったですが、くれぐれも気をつけてくださいね。他に何かありましたか?」
「あ……そう言えば、リカルド様にお客様が来ていたと誰かが話していたような……」
「お客様? それでその後はどうなったのです?」
「さ、さぁ……その直後にボヤ騒ぎがあって……あ……」
徐々にフットマンの顔が青ざめていく。
「ま、まさか……? まだ、お待ちに……?」
声を震わせるリカルドに小さく頷くフットマン。
「!!」
次の瞬間、彼は応接間に向かって駆け出した。
果てしなく、嫌な予感を抱きながら――
フットマンは倉庫の扉を開けるも、そこにリカルドの姿はない。いるのは2人の若い男性使用人たちのみだった。
「どうしたんだ?」
「リカルド様ならいないぞ?」
「ええ!? い、いない? どこへ行ったんだ!?」
その言葉にフットマンは目を見開く。
「うん、発注ミスがあった業者の元へ自分で行くと話していたな」
「俺達が行きましょうかと声をかけたんだけど」
「そ、そんな……」
フットマンが壁に寄りかかったとき――
「大変だ! 枯れ葉を集めて燃やしていたら、物置小屋に燃え移ってしまった! 人手が足りないから応援に来てくれ!」
別のフットマンが倉庫に飛び込んできた。
「「「何だって!!!」」」
「大変だ!」
「こうしてはいられない!」
「早く行こう!!」
こうして4人のフットマンたちは火を消す為に、大急ぎで物置小屋へ向かった。
もちろん、その頃にはイレーネの存在が忘れられてしまったのは言うまでもなかった。
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一方、その頃のイレーネは……
応接間に通されてから、既に2時間が経過していた。始めの頃は、応接間のインテリアを感心した様子で眺めていたイレーネだった。
けれどそれにも飽きてしまい今は一人ソファにぽつんと座り、置き去り状態にされていた。
「それにしても随分時間がかかるのね……やっぱり、突然押しかけてしまったからなのかしら……?」
壁に掛けてある時計を見つめながら、イレーネはため息をついた。
「……喉も乾いたし、お腹も空いてきたわ……こんなことならこのお屋敷に着く前に、どこかで軽く食事でもするべきだったかしら……」
言葉にしてみたもののお金に余裕が無いイレーネに外食など、所詮贅沢でしか無かった。
それよりも今は帰りの汽車の心配のほうが勝っていた。
「どうしましょう……あまり遅くなっては帰りの汽車が無くなってしまうわ。かと言ってホテルに泊まれるはずも無いし……そうなったら図々しいお願いかもしれないけれど、このお屋敷に泊めていただくしか無いわね。頼み込めばきっと何とかなるでしょう」
呑気なイレーネはそう割り切った途端、強烈な眠気に襲われた。
「……何だか、眠くなってきたわ……遅くまで起きて服を仕立てていたから……」
ウトウトしながら、必死で意識を保とうとしたものの……ついにイレーネは背もたれに寄りかかったまま、眠りについてしまった――
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――午後4時半
「ふぅ……やっと戻れた」
発注業者と話をつけてきたリカルドがようやくマイスター家に戻ってきた。
「お帰りなさいませ。リカルド様」
廊下ですれ違ったフットマンがリカルドに声をかけてくる。
「ただいま。何か留守中変わったことはありませんでしたか?」
「あ……そのことですが、実はちょっとしたボヤ騒ぎがあったのです」
「ボヤ騒ぎ? 本当ですか!? 一体何故そのようなことになったのです?」
リカルドが驚きで目を見開く。
「はい、庭の枯れ葉を集めて燃やしていたのですが……突然突風に煽られて、炎の着いた枯れ葉が物置小屋に飛ばされたのです。あ! でも、大丈夫です。小屋の一部がほんの少し燃えただけで被害は殆どありませんでしたから」
慌てたようにフットマンが説明する。
「そうでしたか……それなら良かったですが、くれぐれも気をつけてくださいね。他に何かありましたか?」
「あ……そう言えば、リカルド様にお客様が来ていたと誰かが話していたような……」
「お客様? それでその後はどうなったのです?」
「さ、さぁ……その直後にボヤ騒ぎがあって……あ……」
徐々にフットマンの顔が青ざめていく。
「ま、まさか……? まだ、お待ちに……?」
声を震わせるリカルドに小さく頷くフットマン。
「!!」
次の瞬間、彼は応接間に向かって駆け出した。
果てしなく、嫌な予感を抱きながら――