はじめまして、期間限定のお飾り妻です
103話 奥が深い人
――その日の夕方
屋敷に帰宅したルシアンは早速リカルドを呼び出していた。
「ルシアン様……また何か問題でもありましたか……?」
リカルドは明らかに不機嫌な様子をにじませているルシアンに尋ねた。
「ああ、ある。重要な問題がな……だからお前を呼んだのだろう?」
「今日は、イレーネさんとデートだったのですよね? な、何故そのように不機嫌なのでしょう? 楽しくはなかったのですか?」
「デートだと? いいや、それは違う。単に2人で一緒に出かけただけだ……しかも、よりにもよって例の空き家にな!」
ジロリとリカルドを睨みつけ、腕組みするルシアン。
「ですが、本日あのお屋敷に行く話はルシアン様も承諾したではありませんか? それなのに何故いまだに不機嫌なのでしょう?」
「それはなぁ……あの屋敷の家財道具が一切そのまま残されていたからだ! 一体どういうことだリカルド! 処分しなかったのは家だけじゃなかったのか!?」
怒鳴りつけるルシアン。
「ですが、処分したら勿体ないではありませんか!! まだまだ使えるものばかりなのですよ! しかも全て、あの方の好みに合わせた女性向けのブランド家具なのですから! 大体ルシアン様がいけないのですよ? 何もかも、全て私に任せると仰ったからではありませんか!」
リカルドも大声で負けじと言い返す。
「そこが問題だ! いいか? 俺がイレーネを々連れて行ったのは、あの屋敷を諦めさせるためだったのだ。駅からも遠いし、買い物にも少々不便な場所だ。その様な場所は好まないだろうと思ったからだ!」
「確かに、あの地区は生活するには少々不便な場所ですね。住民もあまり暮らしておりませんせし……だからこそ、あの屋敷を買われたのではありませんか。ひと目につきにくい場所で、あの方とお忍びで会うために……」
「やめろ! 彼女の話は口にするな!」
そしてルシアンはため息をつくと、言葉を続けた。
「……悪かった。つい、きつく言ってしまった……。そうだよな、俺が悪かったんだ……彼女のことを一刻も早く忘れるために、全てお前に丸投げしてしまった俺が」
「ルシアン様……」
「たださえ、あの屋敷には近付きたくも無かったのに結局行く羽目になってしまったし。鍵はお前から預かったものの、入るつもりは無かったのだから。なのにイレーネは見ていたんだよ。おまえが俺に鍵を渡す所を。それで中に入りたいと言ってきたのだ」
「そうだったのですか……」
しんみりと答えるリカルド。
「そして中に入ってみれば、部屋の中はあの当時のままじゃないか。もう言葉が出ないほど驚いてしまったよ。勿論イレーネだって同じだ。『まぁ、なんて素敵な家財道具なのでしょう』と目を見開いていたからな」
「な、なるほど……」
再びルシアンの声の調子が変わり、リカルドは嫌な予感がしてきた。
「そしてイレーネは何と言ったと思う?」
「さ、さぁ……何と仰ったのでしょうか……?」
嫌な予感を抱きつつ尋ねるリカルド。
「『家財道具までセットだなんて、ますます気に入りました。明日から住心地の良い家にする為に掃除をしたいので、しばらくここに住まわせて下さい』と言ってきたのだ」
「え……ええっ!? ほ、本当ですか? そ、それでは今イレーネ様は……?」
「イレーネは今、部屋で明日から泊まり込む為の準備をしている……付き添いの者も誰もいらないと言ってきたよ」
「そ、そんな……イレーネ様……」
ルシアンの言葉に、リカルドはただ驚くだけだった。
(何故空き家があるのか、女性向けの家財道具が全て揃っているのか疑問にも思わないなんて……イレーネさんはどこまで奥深い女性なのだろう?)
「はぁ……全く、彼女は相当な神経の持ち主だな……」
「ええ……本当にそうですね……」
ルシアンとリカルドはため息をついた。
一方、その頃……。
「フフフ……あんなに素敵な家を頂けるなんて、夢みたいだわ。もしかして、予め用意してくださっていたのかしら?」
男二人が悩む中、イレーネは大喜びで荷造りをしていた――
屋敷に帰宅したルシアンは早速リカルドを呼び出していた。
「ルシアン様……また何か問題でもありましたか……?」
リカルドは明らかに不機嫌な様子をにじませているルシアンに尋ねた。
「ああ、ある。重要な問題がな……だからお前を呼んだのだろう?」
「今日は、イレーネさんとデートだったのですよね? な、何故そのように不機嫌なのでしょう? 楽しくはなかったのですか?」
「デートだと? いいや、それは違う。単に2人で一緒に出かけただけだ……しかも、よりにもよって例の空き家にな!」
ジロリとリカルドを睨みつけ、腕組みするルシアン。
「ですが、本日あのお屋敷に行く話はルシアン様も承諾したではありませんか? それなのに何故いまだに不機嫌なのでしょう?」
「それはなぁ……あの屋敷の家財道具が一切そのまま残されていたからだ! 一体どういうことだリカルド! 処分しなかったのは家だけじゃなかったのか!?」
怒鳴りつけるルシアン。
「ですが、処分したら勿体ないではありませんか!! まだまだ使えるものばかりなのですよ! しかも全て、あの方の好みに合わせた女性向けのブランド家具なのですから! 大体ルシアン様がいけないのですよ? 何もかも、全て私に任せると仰ったからではありませんか!」
リカルドも大声で負けじと言い返す。
「そこが問題だ! いいか? 俺がイレーネを々連れて行ったのは、あの屋敷を諦めさせるためだったのだ。駅からも遠いし、買い物にも少々不便な場所だ。その様な場所は好まないだろうと思ったからだ!」
「確かに、あの地区は生活するには少々不便な場所ですね。住民もあまり暮らしておりませんせし……だからこそ、あの屋敷を買われたのではありませんか。ひと目につきにくい場所で、あの方とお忍びで会うために……」
「やめろ! 彼女の話は口にするな!」
そしてルシアンはため息をつくと、言葉を続けた。
「……悪かった。つい、きつく言ってしまった……。そうだよな、俺が悪かったんだ……彼女のことを一刻も早く忘れるために、全てお前に丸投げしてしまった俺が」
「ルシアン様……」
「たださえ、あの屋敷には近付きたくも無かったのに結局行く羽目になってしまったし。鍵はお前から預かったものの、入るつもりは無かったのだから。なのにイレーネは見ていたんだよ。おまえが俺に鍵を渡す所を。それで中に入りたいと言ってきたのだ」
「そうだったのですか……」
しんみりと答えるリカルド。
「そして中に入ってみれば、部屋の中はあの当時のままじゃないか。もう言葉が出ないほど驚いてしまったよ。勿論イレーネだって同じだ。『まぁ、なんて素敵な家財道具なのでしょう』と目を見開いていたからな」
「な、なるほど……」
再びルシアンの声の調子が変わり、リカルドは嫌な予感がしてきた。
「そしてイレーネは何と言ったと思う?」
「さ、さぁ……何と仰ったのでしょうか……?」
嫌な予感を抱きつつ尋ねるリカルド。
「『家財道具までセットだなんて、ますます気に入りました。明日から住心地の良い家にする為に掃除をしたいので、しばらくここに住まわせて下さい』と言ってきたのだ」
「え……ええっ!? ほ、本当ですか? そ、それでは今イレーネ様は……?」
「イレーネは今、部屋で明日から泊まり込む為の準備をしている……付き添いの者も誰もいらないと言ってきたよ」
「そ、そんな……イレーネ様……」
ルシアンの言葉に、リカルドはただ驚くだけだった。
(何故空き家があるのか、女性向けの家財道具が全て揃っているのか疑問にも思わないなんて……イレーネさんはどこまで奥深い女性なのだろう?)
「はぁ……全く、彼女は相当な神経の持ち主だな……」
「ええ……本当にそうですね……」
ルシアンとリカルドはため息をついた。
一方、その頃……。
「フフフ……あんなに素敵な家を頂けるなんて、夢みたいだわ。もしかして、予め用意してくださっていたのかしら?」
男二人が悩む中、イレーネは大喜びで荷造りをしていた――