はじめまして、期間限定のお飾り妻です
106話 これは何かしら?
「イレーネさん。この荷物は何処へ運べばよいですか?」
イレーネのトランクケースを運びながらリカルドが尋ねた。
「はい、その荷物に寝具が入っておりますので2階に運んでいただけますか?」
エプロンを身につけながらイレーネは返事をする。
「ええっ!? 寝具まで持ってこられたのですか!?」
「はい、そうです。ベッドはありましたけど、肝心の寝具が無かったので持ってきました。勿論ピロウにベッドカバーもです」
「そうなのですか? でも、そのようなものはわざわざ持ち運ばずにお店で新しい寝具を購入して運んでもらえば良かったのではありませんか?」
するとイレーネは首を振る。
「いいえ、そんな勿体ないですわ。あるものは有効活用しなければ」
「アハハハ……確かにイレーネさんらしい発想ですね。では2階のベッドルームに運んできますね」
「ありがとうございます」
リカルドは早速重いトランクケースを持って階段を登っていく。
(それにしても泊まり込みでこの屋敷の掃除をするなんて……ハッ! も、もしや……ルシアン様の次期当主は、ほぼ確定したも同然。そうなると、契約妻を演じる必要も無くなる……。と言うことは、自分はもう御役御免でルシアン様にクビにされると思い込んで、今から引っ越しの準備をしているのでは……!?)
心配性のリカルドはよからぬ考えばかりをぐるぐる張り巡らせ、ルシアンからの特命をすっかり忘れてしまった。
過去の女性に関する何かが残されていた場合、イレーネに見つかる前に速やかに処理するという大事な特命を……。
一方のイレーネは鼻歌を歌いながら、部屋にはたきをかけていた。
「本当にこのお屋敷は素敵ね。家具はどれも高級品で、見たところまだ新しいし。それに食器まで残されているのだから。でも何故食器が全て2セットずつあるのかしら?」
家財道具一式全てが自分の為に用意されたものだと信じてやまないイレーネは首を傾げる。
「……分かったわ。万一割ってしまったりした場合を考えてルシアン様が用意してくださったのかもしれないわ。それともお友達用にかしら?」
何でも前向きに、ポジティブに捉えるイレーネは自分の中で結論づけた。
「う〜ん……確かに埃は多いわね……だから、ルシアン様は屋敷の中へ入ることを躊躇したのかしら。あ、そうだわ。床も綺麗に拭かないと」
早速イレーネは庭の外に置かれたポンプ井戸までバケツで水くみをしてくると、持参した雑巾を絞った。
そこへ2階から降りてきたリカルドが声をかける。
「イレーネさん、ついでだったのでベッドの用意をしてまいりました……ところで何をされているのですか?」
床の上に座り込んでいるイレーネにリカルドは尋ねる。
「はい、これから床も綺麗に水拭きしようと思っていたのです。でも、わざわざベッドの用意をして下さったのですか? 運んでくださるだけで結構でしたのに……ありがとうございます」
「いいえ、ベッドメイキングならお任せ下さい。何しろ、私は執事ですから。他に何かお手伝いすることはありますか?」
「そうですね。では2階の掃き掃除をお願いできますか。実は掃除用具を見つけたのです」
勿論、リカルドは掃除用具入れの場所を知っている。何しろ、この家を見つけて用意したのは他でもない、彼自身なのだから。
「はい、では掃除をしてまいりますね」
リカルドはそれだけ言うと、掃除用具を持って2階に移動した。
再び1人になったイレーネは上機嫌で掃除を再開した。
「フフフ。家の中が綺麗になってくるのって何だか嬉しいわ……あら? 何かしら?」
はたきをかけていたイレーネは食器棚の奥に何かが立てかけてあることに気づいた。
「あら? 何かしら?」
食器をどかすと、イレーネは手を伸ばした。
「これは写真立てだわ」
写真立ては裏側に立てかけてあった。面に返してみると写真が挟まれていた。
映っていたのはセピア色の写真。
美しく着飾ったウェーブのかかった長い髪の女性が、ほほ笑みを浮かべてこちらをじっと見つめている写真だった。
「……まぁ、綺麗な女性……。この方は一体どなたなのかしら……? それにどうしてこんなところに立てかけてあったのかしら?」
イレーネは少しの間考え……。
「私が考えてみても仕方ないわね。でも折角の写真だし、見えるところに飾って上げたほうが良いかもしれないわね」
そしてイレーネはリビングに置かれたチェストの上に飾った。
「これでいいわね。さて、お掃除の続きでも始めましょう」
再び、鼻歌を歌いながら掃除の続きを始めるイレーネ。
この後。
2階から降りてきたリカルドが写真を発見して、驚いたのは言うまでもない――
イレーネのトランクケースを運びながらリカルドが尋ねた。
「はい、その荷物に寝具が入っておりますので2階に運んでいただけますか?」
エプロンを身につけながらイレーネは返事をする。
「ええっ!? 寝具まで持ってこられたのですか!?」
「はい、そうです。ベッドはありましたけど、肝心の寝具が無かったので持ってきました。勿論ピロウにベッドカバーもです」
「そうなのですか? でも、そのようなものはわざわざ持ち運ばずにお店で新しい寝具を購入して運んでもらえば良かったのではありませんか?」
するとイレーネは首を振る。
「いいえ、そんな勿体ないですわ。あるものは有効活用しなければ」
「アハハハ……確かにイレーネさんらしい発想ですね。では2階のベッドルームに運んできますね」
「ありがとうございます」
リカルドは早速重いトランクケースを持って階段を登っていく。
(それにしても泊まり込みでこの屋敷の掃除をするなんて……ハッ! も、もしや……ルシアン様の次期当主は、ほぼ確定したも同然。そうなると、契約妻を演じる必要も無くなる……。と言うことは、自分はもう御役御免でルシアン様にクビにされると思い込んで、今から引っ越しの準備をしているのでは……!?)
心配性のリカルドはよからぬ考えばかりをぐるぐる張り巡らせ、ルシアンからの特命をすっかり忘れてしまった。
過去の女性に関する何かが残されていた場合、イレーネに見つかる前に速やかに処理するという大事な特命を……。
一方のイレーネは鼻歌を歌いながら、部屋にはたきをかけていた。
「本当にこのお屋敷は素敵ね。家具はどれも高級品で、見たところまだ新しいし。それに食器まで残されているのだから。でも何故食器が全て2セットずつあるのかしら?」
家財道具一式全てが自分の為に用意されたものだと信じてやまないイレーネは首を傾げる。
「……分かったわ。万一割ってしまったりした場合を考えてルシアン様が用意してくださったのかもしれないわ。それともお友達用にかしら?」
何でも前向きに、ポジティブに捉えるイレーネは自分の中で結論づけた。
「う〜ん……確かに埃は多いわね……だから、ルシアン様は屋敷の中へ入ることを躊躇したのかしら。あ、そうだわ。床も綺麗に拭かないと」
早速イレーネは庭の外に置かれたポンプ井戸までバケツで水くみをしてくると、持参した雑巾を絞った。
そこへ2階から降りてきたリカルドが声をかける。
「イレーネさん、ついでだったのでベッドの用意をしてまいりました……ところで何をされているのですか?」
床の上に座り込んでいるイレーネにリカルドは尋ねる。
「はい、これから床も綺麗に水拭きしようと思っていたのです。でも、わざわざベッドの用意をして下さったのですか? 運んでくださるだけで結構でしたのに……ありがとうございます」
「いいえ、ベッドメイキングならお任せ下さい。何しろ、私は執事ですから。他に何かお手伝いすることはありますか?」
「そうですね。では2階の掃き掃除をお願いできますか。実は掃除用具を見つけたのです」
勿論、リカルドは掃除用具入れの場所を知っている。何しろ、この家を見つけて用意したのは他でもない、彼自身なのだから。
「はい、では掃除をしてまいりますね」
リカルドはそれだけ言うと、掃除用具を持って2階に移動した。
再び1人になったイレーネは上機嫌で掃除を再開した。
「フフフ。家の中が綺麗になってくるのって何だか嬉しいわ……あら? 何かしら?」
はたきをかけていたイレーネは食器棚の奥に何かが立てかけてあることに気づいた。
「あら? 何かしら?」
食器をどかすと、イレーネは手を伸ばした。
「これは写真立てだわ」
写真立ては裏側に立てかけてあった。面に返してみると写真が挟まれていた。
映っていたのはセピア色の写真。
美しく着飾ったウェーブのかかった長い髪の女性が、ほほ笑みを浮かべてこちらをじっと見つめている写真だった。
「……まぁ、綺麗な女性……。この方は一体どなたなのかしら……? それにどうしてこんなところに立てかけてあったのかしら?」
イレーネは少しの間考え……。
「私が考えてみても仕方ないわね。でも折角の写真だし、見えるところに飾って上げたほうが良いかもしれないわね」
そしてイレーネはリビングに置かれたチェストの上に飾った。
「これでいいわね。さて、お掃除の続きでも始めましょう」
再び、鼻歌を歌いながら掃除の続きを始めるイレーネ。
この後。
2階から降りてきたリカルドが写真を発見して、驚いたのは言うまでもない――