はじめまして、期間限定のお飾り妻です
117話 嵐の後始末
「……本当に、今夜は戻らないつもりか?」
夜空の下。
車の前でルシアンは真剣な眼差しでイレーネに尋ねる。
「はい、戻りません。今夜の嵐でせっかく耕してしまった畑が駄目になってしまったので明日、作業をしたいのです」
「だが……もしまた天候が……」
「それならご安心下さい、ほら。空をご覧になって下さい」
イレーネに言われて顔を上げると、空には満天の星が輝いている。
「……綺麗な夜空だ」
思わずルシアンがポツリと呟くと、イレーネは笑顔になる。
「ね? これだけ星がでているならもう嵐の心配はありませんから」
「確かにそうなのだが……なら、俺も今夜ここに宿泊しようか?」
ルシアンの脳裏に、涙を浮かべて恐怖で震えているイレーネの姿が浮かぶ。
あんな姿を見せられて、ここに1人で残すことがためらわれた。
「ベッドは一つしかありませんけど……なら、ルシアン様がお使い下さい。私はソファでも床でもどこでも構いませんから」
「何だって? 女性にそんなことをさせるわけにはいかない」
慌てて首を振るルシアン。
「ですが、私だって雇い主であるルシアン様にベッド以外では休んでもらいたくはありませんわ」
「雇い主……」
イレーネの言葉に、何故か壁を感じるルシアン。
(やはり、イレーネにとって……俺は契約相手としかみられていないのだろうな)
じっと見つめるルシアンにイレーネは首を傾げる。
「どうしましたか? ルシアン様」
「いや、何でも無い。……分かったよ。もう天気は大丈夫そうだからな。帰るよ」
ルシアンは車のドアを開けると乗り込み、再度イレーネに尋ねた。
「イレーネ。あと何日程でマイスター家に戻れそうなのだ?」
「そうですね……3日以内には戻れると思います」
「分かった。とにかく……戸締まりだけはしっかりするんだぞ?」
「ええ。大丈夫ですわ。ルシアン様も気をつけてお帰り下さい」
ニコニコ笑みを浮かべるイレーネ。
「……ああ、それじゃあ」
ルシアンはイレーネに見送られながら車で走り去っていった。
「……本当に、車というものは早いのね……」
あっという間に地平線に消えていったルシアンの車を見ながらポツリとつぶやき……欠伸をした。
「ふわぁあああ……眠くなってきたわ。今夜はもう休みましょう。明日は朝から忙しくなりそうだし」
そしてイレーネは家の中に入ると、戸締まりをした――
****
――翌朝
パンにチーズ、それに野菜スープと簡単な朝食を終えたイレーネは朝から庭仕事をしていた。
「……ふぅ。嵐の爪痕は大きいわね……」
軍手をはめて、強風で飛ばされてきた木々を拾い集めていると不意に声をかけられた。
「おはようございます。イレーネさん」
「え?」
顔を上げると、柵の向こうからケヴィンが笑顔で立っていた。今日の彼は私服姿をしている。
「おはようございます、ケビヴィンさん」
笑顔で返事をすると、ケヴィンが心配そうな表情を浮かべる。
「イレーネさん。今、ご近所を見回ってきた帰りなのですけど昨夜の嵐は大丈夫でしたか?」
「ええ。驚きましたけど、この通り家は無事です。ただ、お庭はご覧の通りですけど」
拾い集めた木々を指差すイレーネ。
「確かに木々が散らばっていますね。女性一人では大変でしょう。お手伝いしますよ」
「そんな、ご迷惑おかけできませんわ」
その言葉にイレーネは慌てて首を振る。
「迷惑なんかじゃありませんよ、今日は非番ですけど僕は警察官です。困っている人のお手伝いくらいさせて下さい」
「そうでしょうか……?」
そこまで言われては、さすがのイレーネも断れない。それに実際手助けは欲しかった。
(ルシアン様にはなるべく早く帰ってきてもらいたいようなことを言われていたし……この際、お手伝いしてもらおうかしら? 後で何かお礼すればいいのだしね)
イレーネが考え込んでいる間、ケヴィンは笑みを浮かべながら待っている。
「あの、それでは……お願いできますか?」
「はい、喜んで」
イレーネが柵の門を開けると、早速ケヴィンは敷地内に入ってきた。
「それでは、何から初めましょうか?」
「そうですね。では飛んできた枝を集めていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、分かりました」
こうして、2人は庭の片付けを行った――
夜空の下。
車の前でルシアンは真剣な眼差しでイレーネに尋ねる。
「はい、戻りません。今夜の嵐でせっかく耕してしまった畑が駄目になってしまったので明日、作業をしたいのです」
「だが……もしまた天候が……」
「それならご安心下さい、ほら。空をご覧になって下さい」
イレーネに言われて顔を上げると、空には満天の星が輝いている。
「……綺麗な夜空だ」
思わずルシアンがポツリと呟くと、イレーネは笑顔になる。
「ね? これだけ星がでているならもう嵐の心配はありませんから」
「確かにそうなのだが……なら、俺も今夜ここに宿泊しようか?」
ルシアンの脳裏に、涙を浮かべて恐怖で震えているイレーネの姿が浮かぶ。
あんな姿を見せられて、ここに1人で残すことがためらわれた。
「ベッドは一つしかありませんけど……なら、ルシアン様がお使い下さい。私はソファでも床でもどこでも構いませんから」
「何だって? 女性にそんなことをさせるわけにはいかない」
慌てて首を振るルシアン。
「ですが、私だって雇い主であるルシアン様にベッド以外では休んでもらいたくはありませんわ」
「雇い主……」
イレーネの言葉に、何故か壁を感じるルシアン。
(やはり、イレーネにとって……俺は契約相手としかみられていないのだろうな)
じっと見つめるルシアンにイレーネは首を傾げる。
「どうしましたか? ルシアン様」
「いや、何でも無い。……分かったよ。もう天気は大丈夫そうだからな。帰るよ」
ルシアンは車のドアを開けると乗り込み、再度イレーネに尋ねた。
「イレーネ。あと何日程でマイスター家に戻れそうなのだ?」
「そうですね……3日以内には戻れると思います」
「分かった。とにかく……戸締まりだけはしっかりするんだぞ?」
「ええ。大丈夫ですわ。ルシアン様も気をつけてお帰り下さい」
ニコニコ笑みを浮かべるイレーネ。
「……ああ、それじゃあ」
ルシアンはイレーネに見送られながら車で走り去っていった。
「……本当に、車というものは早いのね……」
あっという間に地平線に消えていったルシアンの車を見ながらポツリとつぶやき……欠伸をした。
「ふわぁあああ……眠くなってきたわ。今夜はもう休みましょう。明日は朝から忙しくなりそうだし」
そしてイレーネは家の中に入ると、戸締まりをした――
****
――翌朝
パンにチーズ、それに野菜スープと簡単な朝食を終えたイレーネは朝から庭仕事をしていた。
「……ふぅ。嵐の爪痕は大きいわね……」
軍手をはめて、強風で飛ばされてきた木々を拾い集めていると不意に声をかけられた。
「おはようございます。イレーネさん」
「え?」
顔を上げると、柵の向こうからケヴィンが笑顔で立っていた。今日の彼は私服姿をしている。
「おはようございます、ケビヴィンさん」
笑顔で返事をすると、ケヴィンが心配そうな表情を浮かべる。
「イレーネさん。今、ご近所を見回ってきた帰りなのですけど昨夜の嵐は大丈夫でしたか?」
「ええ。驚きましたけど、この通り家は無事です。ただ、お庭はご覧の通りですけど」
拾い集めた木々を指差すイレーネ。
「確かに木々が散らばっていますね。女性一人では大変でしょう。お手伝いしますよ」
「そんな、ご迷惑おかけできませんわ」
その言葉にイレーネは慌てて首を振る。
「迷惑なんかじゃありませんよ、今日は非番ですけど僕は警察官です。困っている人のお手伝いくらいさせて下さい」
「そうでしょうか……?」
そこまで言われては、さすがのイレーネも断れない。それに実際手助けは欲しかった。
(ルシアン様にはなるべく早く帰ってきてもらいたいようなことを言われていたし……この際、お手伝いしてもらおうかしら? 後で何かお礼すればいいのだしね)
イレーネが考え込んでいる間、ケヴィンは笑みを浮かべながら待っている。
「あの、それでは……お願いできますか?」
「はい、喜んで」
イレーネが柵の門を開けると、早速ケヴィンは敷地内に入ってきた。
「それでは、何から初めましょうか?」
「そうですね。では飛んできた枝を集めていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、分かりました」
こうして、2人は庭の片付けを行った――