はじめまして、期間限定のお飾り妻です
119話 意外な場所で
あの嵐の日から、早いもので3ヶ月が経過していた。
イレーネは半月に一度は、リカルドから譲り受けた家に通うようになっていたのだった。
「それでは、今日もあの家に行くつもりなのか?」
朝食の席でルシアンがイレーネに尋ねる。
「はい、行ってきます」
笑顔で返事をするイレーネ。
「だが、何もそんなに頻繁に行かなくても……」
言葉をつまらせるルシアンにイレーネは理由を述べた。
「あの家は空き家ですから、定期的に訪れて管理をしないと家の維持は難しいですから」
「そうか……」
正直に言うとルシアンは、イレーネにあまりあの家には通って欲しくは無かった。
その理由はただ一つしかない。
「心配しなくても大丈夫です。明日にはまた戻りますので」
「……分かった。なら気をつけて行くといい」
「はい、ルシアン様」
イレーネは笑顔で返事をした。
****
イレーネは今夜の食材を買うために、1人で町に出てきていた。
「えっと……バターは買ったし……あ、そうだわ。ドライフルーツを買わなくちゃ。今夜はレーズンパンを作るんだったわ」
買い物メモを確認すると、イレーネはポケットにしまった。
「それにしても、今日の駅前は凄い人手ね。一体何があったのかしら?」
駅前には大勢の人々が集結していた。しかも大騒ぎになっており、警察官たちまで警備にあたっている。
「もしかして、有名人でも来ているのかしら?」
好奇心旺盛なイレーネは、一度気になったものは確認してみなければならない性格をしている。
「ドライフルーツは後で買えるものね……行ってみましょう」
そしてイレーネは人だかりの方へ足を向けた。
**
「皆さん! 落ち着いて! 押さないで下さい!」
「道を開けて下さい!」
騒ぎの中心から大きな声が聞こえている。
「サインして下さい!」
中にはサインをねだる声まである。
「え? サイン? もしかして有名人でも来ているのかしら?」
イレーネは誰が来ているのか、見たくても人だかりが出来ているので確認することも出来ない。
そのとき――
「あれ? イレーネさんじゃありませんか!」
不意に声をかけられた。
「え?」
驚いて振り向くと、警察官姿のケヴィンが自分を見つめている。
「まぁ! ケヴィンさん、こんにちは。偶然ですわね」
「こんにちは。もしかしてイレーネさん……見物に来たのですか?」
「は、はい……。何事か興味があったので……お恥ずかしいですわ」
野次馬根性の自分が不意に恥ずかしくなるイレーネ。
「そんなこと無いですよ、この騒ぎでは誰だって興味を持つでしょうから」
背後を振り返るケヴィン。
相変わらずの人だかりで、しかも人数が増え始めていた。
「ケヴィンさん。一体これは何の騒ぎなのですか?」
「ええ、実は3日後から開催されるオペラの出演者たちが到着したのです。それでこの騒ぎです」
「3日後のオペラ……? あ、知ってます! 確か、『令嬢ヴィオレッタと侯爵の秘密』という、オペラですよね?」
「オペラの題名は知りませんが……有名な歌姫である、ベアトリス・オルソンが来ているんですよ」
「まあ、確か彼女はヒロインを演じる女性ですよね?」
「ええ、そうです。それで……」
ケヴィンがそこまで言いかけた時……。
「おーい! こっちの警備を頼む!」
ケヴィンに呼びかける警察官の姿が見えた。
「あ、いけない! すみません、イレーネさん。もう行かなくちゃ」
帽子を脱いで、一礼するとケヴィンは走り去っていった。
「ベアトリス・オルソン……やっぱり近くで見てみたいわ」
そこでイレーネは人混みを掻き分けて、前に進む。
「す、すみません……通して下さい……」
身体が小さくても、根性があるイレーネは何とか、列の最前線に来ることが出来た。
すると、運良くベアトリスがすぐ近くにいる。
彼女は笑顔で気さくにサインに応じている。
「まぁ……やっぱり綺麗な人ね。さすがは歌姫だわ」
イレーネは感心した様子でベアトリスを見つめた――
イレーネは半月に一度は、リカルドから譲り受けた家に通うようになっていたのだった。
「それでは、今日もあの家に行くつもりなのか?」
朝食の席でルシアンがイレーネに尋ねる。
「はい、行ってきます」
笑顔で返事をするイレーネ。
「だが、何もそんなに頻繁に行かなくても……」
言葉をつまらせるルシアンにイレーネは理由を述べた。
「あの家は空き家ですから、定期的に訪れて管理をしないと家の維持は難しいですから」
「そうか……」
正直に言うとルシアンは、イレーネにあまりあの家には通って欲しくは無かった。
その理由はただ一つしかない。
「心配しなくても大丈夫です。明日にはまた戻りますので」
「……分かった。なら気をつけて行くといい」
「はい、ルシアン様」
イレーネは笑顔で返事をした。
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イレーネは今夜の食材を買うために、1人で町に出てきていた。
「えっと……バターは買ったし……あ、そうだわ。ドライフルーツを買わなくちゃ。今夜はレーズンパンを作るんだったわ」
買い物メモを確認すると、イレーネはポケットにしまった。
「それにしても、今日の駅前は凄い人手ね。一体何があったのかしら?」
駅前には大勢の人々が集結していた。しかも大騒ぎになっており、警察官たちまで警備にあたっている。
「もしかして、有名人でも来ているのかしら?」
好奇心旺盛なイレーネは、一度気になったものは確認してみなければならない性格をしている。
「ドライフルーツは後で買えるものね……行ってみましょう」
そしてイレーネは人だかりの方へ足を向けた。
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「皆さん! 落ち着いて! 押さないで下さい!」
「道を開けて下さい!」
騒ぎの中心から大きな声が聞こえている。
「サインして下さい!」
中にはサインをねだる声まである。
「え? サイン? もしかして有名人でも来ているのかしら?」
イレーネは誰が来ているのか、見たくても人だかりが出来ているので確認することも出来ない。
そのとき――
「あれ? イレーネさんじゃありませんか!」
不意に声をかけられた。
「え?」
驚いて振り向くと、警察官姿のケヴィンが自分を見つめている。
「まぁ! ケヴィンさん、こんにちは。偶然ですわね」
「こんにちは。もしかしてイレーネさん……見物に来たのですか?」
「は、はい……。何事か興味があったので……お恥ずかしいですわ」
野次馬根性の自分が不意に恥ずかしくなるイレーネ。
「そんなこと無いですよ、この騒ぎでは誰だって興味を持つでしょうから」
背後を振り返るケヴィン。
相変わらずの人だかりで、しかも人数が増え始めていた。
「ケヴィンさん。一体これは何の騒ぎなのですか?」
「ええ、実は3日後から開催されるオペラの出演者たちが到着したのです。それでこの騒ぎです」
「3日後のオペラ……? あ、知ってます! 確か、『令嬢ヴィオレッタと侯爵の秘密』という、オペラですよね?」
「オペラの題名は知りませんが……有名な歌姫である、ベアトリス・オルソンが来ているんですよ」
「まあ、確か彼女はヒロインを演じる女性ですよね?」
「ええ、そうです。それで……」
ケヴィンがそこまで言いかけた時……。
「おーい! こっちの警備を頼む!」
ケヴィンに呼びかける警察官の姿が見えた。
「あ、いけない! すみません、イレーネさん。もう行かなくちゃ」
帽子を脱いで、一礼するとケヴィンは走り去っていった。
「ベアトリス・オルソン……やっぱり近くで見てみたいわ」
そこでイレーネは人混みを掻き分けて、前に進む。
「す、すみません……通して下さい……」
身体が小さくても、根性があるイレーネは何とか、列の最前線に来ることが出来た。
すると、運良くベアトリスがすぐ近くにいる。
彼女は笑顔で気さくにサインに応じている。
「まぁ……やっぱり綺麗な人ね。さすがは歌姫だわ」
イレーネは感心した様子でベアトリスを見つめた――