はじめまして、期間限定のお飾り妻です
121話 私が行ってきましょう
「どうもありがとうございました」
別宅の前に馬車が到着し、イレーネは馬車代を支払うと痛みを押さえて降り立った。
「大丈夫ですか? お客様」
男性御者が心配そうに声をかけてくる。
「ええ、大丈夫です。ご心配頂きありがとうございます」
「では、失礼します」
互いに挨拶を交わすと馬車は走り去っていった。
「……何だか痛みが酷くなってきたみたいだわ。早く治療しなくちゃ」
痛む足を引きずりながら、イレーネは家の中へ入っていった――
**
帰宅したイレーネは、湿布を作るために台所で材料を探していた。
「え〜と、小麦粉にビネガーは……あ、あったわ」
早速小麦粉をビネガーと混ぜて練り合わせると用意していたガーゼに塗ると、ガーゼを痛めた足首にそっとあてる。
「つ、冷たい……でも我慢我慢」
自分に言い聞かせ、包帯を巻きつけた。
「……出来たわ。どうかしら?」
早速イレーネは少しだけ歩いてみた。
「だいぶ痛みは和らいだみたいね。やっぱりお祖父様直伝の湿布は効果があるわ」
そして窓の外を見ると、そこには農作業用道具が畑の側に置かれている。
「……こんな状態じゃなければ、マイスター家に戻っていたのだけれど……」
買い物から帰宅後は、すぐに畑仕事が出来るように用具を出して出掛けてしまっていたのだ。
「痛みがひいたら、片付けをしなくちゃ」
イレーネはポツリと呟いた。
****
「今日もイレーネさんは別宅に泊まられるのですね」
仕事をしているルシアンに紅茶を注ぎながらリカルドが尋ねた。
「そうだ。……別宅という言い方をするな」
ムッとした様子でルシアンがリカルドを見る。
「それは失礼致しました」
「全く……イレーネはあの家が好きなようだ。毎回楽しそうに行っているからな」
「つまらなそうな顔をして出掛けられるより、余程良いではありませんか」
リカルドの言葉に、ルシアンは呆れ顔になる。
「あのなぁ、俺はそんなことを話しているんじゃない。……もしかして、あの場所には何かあるんじゃないだろうか?」
「何かとは?」
「それが分からないから、何かと言ってるんだろう?」
「ルシアン様……」
じっとリカルドはルシアンを見つめる。
「な、何だ?」
「本当に、イレーネさんのことを気にかけてらっしゃるのですねぇ?」
「それは当然だろう? 何しろ彼女とは契約を結んだ婚約者の関係だからな。今月開催する任命式で、正式にイレーネと結婚することを世間に公表しなければならないのだから」
今月に任命式を行うことは既にイレーネには説明済みだった。
「……本当にそれだけの理由でしょうか」
ポツリと呟くリカルド。
「何だ? 何か言ったか? リカルド」
「いえ、別に何も言っておりません。ですが、そんなに気になるのでしたら様子を見に行かれたらどうですか?」
「行けるはず無いだろう? 見てくれ、この仕事の山を」
ルシアンは机の上に山積みにされた書類を指差す。
「確かに今のルシアン様はお忙しそうに見えますね……。分かりました、では私がルシアン様の代わりにイレーネさんの様子を見に行って参りましょう」
「そうだな。そうしてくれると助かる」
「ええ、お任せ下さい」
リカルドは笑みを浮かべて返事をし……後程、酷く後悔する自体に陥るのだった――
別宅の前に馬車が到着し、イレーネは馬車代を支払うと痛みを押さえて降り立った。
「大丈夫ですか? お客様」
男性御者が心配そうに声をかけてくる。
「ええ、大丈夫です。ご心配頂きありがとうございます」
「では、失礼します」
互いに挨拶を交わすと馬車は走り去っていった。
「……何だか痛みが酷くなってきたみたいだわ。早く治療しなくちゃ」
痛む足を引きずりながら、イレーネは家の中へ入っていった――
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帰宅したイレーネは、湿布を作るために台所で材料を探していた。
「え〜と、小麦粉にビネガーは……あ、あったわ」
早速小麦粉をビネガーと混ぜて練り合わせると用意していたガーゼに塗ると、ガーゼを痛めた足首にそっとあてる。
「つ、冷たい……でも我慢我慢」
自分に言い聞かせ、包帯を巻きつけた。
「……出来たわ。どうかしら?」
早速イレーネは少しだけ歩いてみた。
「だいぶ痛みは和らいだみたいね。やっぱりお祖父様直伝の湿布は効果があるわ」
そして窓の外を見ると、そこには農作業用道具が畑の側に置かれている。
「……こんな状態じゃなければ、マイスター家に戻っていたのだけれど……」
買い物から帰宅後は、すぐに畑仕事が出来るように用具を出して出掛けてしまっていたのだ。
「痛みがひいたら、片付けをしなくちゃ」
イレーネはポツリと呟いた。
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「今日もイレーネさんは別宅に泊まられるのですね」
仕事をしているルシアンに紅茶を注ぎながらリカルドが尋ねた。
「そうだ。……別宅という言い方をするな」
ムッとした様子でルシアンがリカルドを見る。
「それは失礼致しました」
「全く……イレーネはあの家が好きなようだ。毎回楽しそうに行っているからな」
「つまらなそうな顔をして出掛けられるより、余程良いではありませんか」
リカルドの言葉に、ルシアンは呆れ顔になる。
「あのなぁ、俺はそんなことを話しているんじゃない。……もしかして、あの場所には何かあるんじゃないだろうか?」
「何かとは?」
「それが分からないから、何かと言ってるんだろう?」
「ルシアン様……」
じっとリカルドはルシアンを見つめる。
「な、何だ?」
「本当に、イレーネさんのことを気にかけてらっしゃるのですねぇ?」
「それは当然だろう? 何しろ彼女とは契約を結んだ婚約者の関係だからな。今月開催する任命式で、正式にイレーネと結婚することを世間に公表しなければならないのだから」
今月に任命式を行うことは既にイレーネには説明済みだった。
「……本当にそれだけの理由でしょうか」
ポツリと呟くリカルド。
「何だ? 何か言ったか? リカルド」
「いえ、別に何も言っておりません。ですが、そんなに気になるのでしたら様子を見に行かれたらどうですか?」
「行けるはず無いだろう? 見てくれ、この仕事の山を」
ルシアンは机の上に山積みにされた書類を指差す。
「確かに今のルシアン様はお忙しそうに見えますね……。分かりました、では私がルシアン様の代わりにイレーネさんの様子を見に行って参りましょう」
「そうだな。そうしてくれると助かる」
「ええ、お任せ下さい」
リカルドは笑みを浮かべて返事をし……後程、酷く後悔する自体に陥るのだった――