はじめまして、期間限定のお飾り妻です
125話 照れるルシアン
――18時
ルシアンが書斎で仕事をしていると、部屋の扉がノックされた。
「入ってくれ」
てっきり、リカルドだと思っていたルシアンは顔も上げずに返事をする。
すると扉が開かれ、部屋に声が響き渡った。
「失礼致します」
「え?」
その声に驚き、ルシアンは顔を上げるとイレーネが笑みを浮かべて立っていた。
「イレーネ! 驚いたな……。てっきり、今夜は泊まるのかとばかり思っていた」
「はい、その予定だったのですがリカルド様がいらしたので、一緒に帰ってくることにしたのです」
イレーネは答えながら部屋の中に入ってきた。
「ん? イレーネ。足をどうかしたのか?」
ルシアンが眉を潜める。
「え? 足ですか?」
「ああ、歩き方がいつもとは違う」
ルシアンは席を立つと、イレーネに近付き足元を見つめた。
「あ、あの。少し足首をひねってしまって……」
「まさか、それなのに歩いていたのか? 駄目じゃないか」
言うなり、ルシアンはイレーネを抱き上げた。
「え? きゃあ! ル、ルシアン様!?」
ルシアンはイレーネを抱き上げたままソファに向かうと、座らせた。
「足は大事にしないと駄目だ。ここに座っていろ。今、人を呼んで主治医を連れてきてもらうから」
「いいえ、それなら大丈夫です。自分で手当をしましたから」
イレーネは少しだけ、ドレスの裾を上げると包帯を巻いた足を見せる。
「自分で治療したのか?」
包帯を巻いた足を見て、驚くルシアン。
「はい、湿布薬を作って自分で包帯を巻きました。シエラ家は貧しかったのでお医者様を呼べるような環境ではありませんでしたから。お祖父様には色々教えていただきました」
「イレーネ……君って人は……」
ルシアンはイレーネの置かれていた境遇にグッとくる。
「でも……まさか、ルシアン様に気付かれるとは思いませんでしたわ」
「それはそうだろう。俺がどれだけ、君のことを見ていると思って……」
そこまで言いかけルシアンは顔が赤くなり、思わず顔を背けた。
(お、俺は一体何を言ってるんだ? これではイレーネのことが気になっていると言っているようなものじゃないか!)
だがいつの頃からか、イレーネから目を離せなくなっていたのは事実だ。
「ルシアン様? どうされたのですか?」
突然そっぽを向いてしまったルシアンにイレーネは首を傾げる。
「い、いや。何でもない」
「そうですか……でも、嬉しいです」
「え?」
イレーネの言葉に、ルシアンは再び視線を向ける。
「私のことを気にかけて頂いて、ありがとうございます」
そして、笑みを浮かべるイレーネ。
「そ、それは当然のことだろう? 何しろ君は俺の……その、契約を交わしている相手なのだからな」
「はい、そうですね。それでもありがとうございます」
足の怪我に気づいてくれたことが嬉しかったイレーネは素直に礼を述べる。
「いや……別に礼は、いらない」
何だか気恥ずかしくなったルシアンは再び視線をそらすと、咳払いした。
「ゴホン! ところで、イレーネ。 10日後に開催されるレセプションパーティーのことは覚えているか?」
「ええ、勿論です。既にドレスの用意もしていただきました」
「そうか。そのパーティーで君を正式に俺の結婚相手として発表するつもりなのだが……大丈夫だよな?」
今更だとは思いつつ、尋ねるルシアン。
「ええ、勿論です。レセプションパーティーには会社の取引先の御夫妻も多く、いらっしゃるのですよね?」
「そうだ、だがそれだけではない。多くの著名人も集まるからな……君の存在をいよいよ世間に広める日が来るから……その、よろしく頼むぞ」
「はい、お任せ下さい。ルシアン様」
だが、ルシアンはまだ何も知らない。
このレセプションが2人の運命の分岐点になるということを――
ルシアンが書斎で仕事をしていると、部屋の扉がノックされた。
「入ってくれ」
てっきり、リカルドだと思っていたルシアンは顔も上げずに返事をする。
すると扉が開かれ、部屋に声が響き渡った。
「失礼致します」
「え?」
その声に驚き、ルシアンは顔を上げるとイレーネが笑みを浮かべて立っていた。
「イレーネ! 驚いたな……。てっきり、今夜は泊まるのかとばかり思っていた」
「はい、その予定だったのですがリカルド様がいらしたので、一緒に帰ってくることにしたのです」
イレーネは答えながら部屋の中に入ってきた。
「ん? イレーネ。足をどうかしたのか?」
ルシアンが眉を潜める。
「え? 足ですか?」
「ああ、歩き方がいつもとは違う」
ルシアンは席を立つと、イレーネに近付き足元を見つめた。
「あ、あの。少し足首をひねってしまって……」
「まさか、それなのに歩いていたのか? 駄目じゃないか」
言うなり、ルシアンはイレーネを抱き上げた。
「え? きゃあ! ル、ルシアン様!?」
ルシアンはイレーネを抱き上げたままソファに向かうと、座らせた。
「足は大事にしないと駄目だ。ここに座っていろ。今、人を呼んで主治医を連れてきてもらうから」
「いいえ、それなら大丈夫です。自分で手当をしましたから」
イレーネは少しだけ、ドレスの裾を上げると包帯を巻いた足を見せる。
「自分で治療したのか?」
包帯を巻いた足を見て、驚くルシアン。
「はい、湿布薬を作って自分で包帯を巻きました。シエラ家は貧しかったのでお医者様を呼べるような環境ではありませんでしたから。お祖父様には色々教えていただきました」
「イレーネ……君って人は……」
ルシアンはイレーネの置かれていた境遇にグッとくる。
「でも……まさか、ルシアン様に気付かれるとは思いませんでしたわ」
「それはそうだろう。俺がどれだけ、君のことを見ていると思って……」
そこまで言いかけルシアンは顔が赤くなり、思わず顔を背けた。
(お、俺は一体何を言ってるんだ? これではイレーネのことが気になっていると言っているようなものじゃないか!)
だがいつの頃からか、イレーネから目を離せなくなっていたのは事実だ。
「ルシアン様? どうされたのですか?」
突然そっぽを向いてしまったルシアンにイレーネは首を傾げる。
「い、いや。何でもない」
「そうですか……でも、嬉しいです」
「え?」
イレーネの言葉に、ルシアンは再び視線を向ける。
「私のことを気にかけて頂いて、ありがとうございます」
そして、笑みを浮かべるイレーネ。
「そ、それは当然のことだろう? 何しろ君は俺の……その、契約を交わしている相手なのだからな」
「はい、そうですね。それでもありがとうございます」
足の怪我に気づいてくれたことが嬉しかったイレーネは素直に礼を述べる。
「いや……別に礼は、いらない」
何だか気恥ずかしくなったルシアンは再び視線をそらすと、咳払いした。
「ゴホン! ところで、イレーネ。 10日後に開催されるレセプションパーティーのことは覚えているか?」
「ええ、勿論です。既にドレスの用意もしていただきました」
「そうか。そのパーティーで君を正式に俺の結婚相手として発表するつもりなのだが……大丈夫だよな?」
今更だとは思いつつ、尋ねるルシアン。
「ええ、勿論です。レセプションパーティーには会社の取引先の御夫妻も多く、いらっしゃるのですよね?」
「そうだ、だがそれだけではない。多くの著名人も集まるからな……君の存在をいよいよ世間に広める日が来るから……その、よろしく頼むぞ」
「はい、お任せ下さい。ルシアン様」
だが、ルシアンはまだ何も知らない。
このレセプションが2人の運命の分岐点になるということを――