はじめまして、期間限定のお飾り妻です
129話 諦めるリカルド
翌朝――
イレーネとルシアンはいつものように向かい合わせで食事をしていた。
「イレーネ、今日は1日仕事の休みを取った。10時になったら外出するからエントランスの前で待っていてくれ」
「はい、ルシアン様。お出かけするのですね? フフ。楽しみです」
楽しそうに笑うイレーネにルシアンも笑顔で頷く。
「ああ、楽しみにしていてくれ」
ルシアンは以前から、今日の為にサプライズを考えていたのだ。そして直前まで内容は伏せておきたかった。
なので、あれこれ内容を聞いてこないイレーネを好ましく思っていた。
(イレーネは、やはり普通の女性とは違う奥ゆかしいところがある。そういうところがいいな)
思わず、じっとイレーネを見つめるルシアン。
「ルシアン様? どうかされましたか?」
「い、いや。何でもない。と、ところでイレーネ」
「はい、何でしょう」
「出かける時は、着替えてきてくれ。そうだな……スカート丈はあまり長くないほうがいい。できれば足さばきの良いドレスがいいだろう」
「はい、分かりましたわ。何か楽しいことをなさるおつもりなのですね?」
「そうだな。きっと楽しいだろう」
ルシアンは今からイレーネの驚く様子を目に浮かべ……頷いた。
****
「リカルド、今日は俺の代わりにこの書斎で電話番をしていてもらうからな」
書斎でネクタイをしめながら、ルシアンはリカルドに命じる。
「はい。分かりました。ただ何度も申し上げておりますが、私は確かにルシアン様の執事ではあります。あくまで身の回りのお世話をするのが仕事ですよ? さすがに仕事関係の電話番まで私にさせるのは如何なものでしょう!?」
最後の方は悲鳴じみた声をあげる。
「仕方ないだろう? この屋敷にはお前の他に俺の仕事を手伝える者はいないのだから。どうだ? このネクタイ、おかしくないか?」
「……少し、歪んでおりますね」
リカルドはルシアンのネクタイを手際良く直す。
「ありがとう、それではリカルド。電話番を頼んだぞ」
「ですから! 今回は言われた通り電話番を致しますが、どうぞルシアン様。いい加減に秘書を雇ってください! これでは私の仕事が増える一方ですから」
「しかし、秘書と言われてもな……中々これだと言う人物がいない」
「職業斡旋所は利用されているのですよね? 望みが高すぎるのではありませんか?」
「別にそんなつもりはないがな」
「だったら、いっそゲオルグ様に秘書をお願いしてみたらいかがです? 当主になれば、今よりももっと仕事が増えてイレーネさんと過ごす時間も減っていきますよ」
「……それは困るな……」
ポツリと呟くルシアン。
「そうですよね? でしたら……」
「今以上に、もっとリカルドには頑張ってもらわなければな」
「はい!? 何を仰っていられるのですか?」
「おっと、時間だ。イレーネを待たせるわけにはいかないから、もう出かけるからな。とにかく電話がかかってきたら、しっかりメモを残しておけよ」
それだけ告げると、ルシアンは急ぎ足で書斎を出ていった。
「……全く、ルシアン様は……すっかりデート気分でいらっしゃるようだ。仕方ない。こちらが協力するしか無いようだな」
リカルドは肩をすくめる。
この頃のマイスター家は本当に平和だった。
やがて大きな転機が訪れるとは誰も思いもせずに――
イレーネとルシアンはいつものように向かい合わせで食事をしていた。
「イレーネ、今日は1日仕事の休みを取った。10時になったら外出するからエントランスの前で待っていてくれ」
「はい、ルシアン様。お出かけするのですね? フフ。楽しみです」
楽しそうに笑うイレーネにルシアンも笑顔で頷く。
「ああ、楽しみにしていてくれ」
ルシアンは以前から、今日の為にサプライズを考えていたのだ。そして直前まで内容は伏せておきたかった。
なので、あれこれ内容を聞いてこないイレーネを好ましく思っていた。
(イレーネは、やはり普通の女性とは違う奥ゆかしいところがある。そういうところがいいな)
思わず、じっとイレーネを見つめるルシアン。
「ルシアン様? どうかされましたか?」
「い、いや。何でもない。と、ところでイレーネ」
「はい、何でしょう」
「出かける時は、着替えてきてくれ。そうだな……スカート丈はあまり長くないほうがいい。できれば足さばきの良いドレスがいいだろう」
「はい、分かりましたわ。何か楽しいことをなさるおつもりなのですね?」
「そうだな。きっと楽しいだろう」
ルシアンは今からイレーネの驚く様子を目に浮かべ……頷いた。
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「リカルド、今日は俺の代わりにこの書斎で電話番をしていてもらうからな」
書斎でネクタイをしめながら、ルシアンはリカルドに命じる。
「はい。分かりました。ただ何度も申し上げておりますが、私は確かにルシアン様の執事ではあります。あくまで身の回りのお世話をするのが仕事ですよ? さすがに仕事関係の電話番まで私にさせるのは如何なものでしょう!?」
最後の方は悲鳴じみた声をあげる。
「仕方ないだろう? この屋敷にはお前の他に俺の仕事を手伝える者はいないのだから。どうだ? このネクタイ、おかしくないか?」
「……少し、歪んでおりますね」
リカルドはルシアンのネクタイを手際良く直す。
「ありがとう、それではリカルド。電話番を頼んだぞ」
「ですから! 今回は言われた通り電話番を致しますが、どうぞルシアン様。いい加減に秘書を雇ってください! これでは私の仕事が増える一方ですから」
「しかし、秘書と言われてもな……中々これだと言う人物がいない」
「職業斡旋所は利用されているのですよね? 望みが高すぎるのではありませんか?」
「別にそんなつもりはないがな」
「だったら、いっそゲオルグ様に秘書をお願いしてみたらいかがです? 当主になれば、今よりももっと仕事が増えてイレーネさんと過ごす時間も減っていきますよ」
「……それは困るな……」
ポツリと呟くルシアン。
「そうですよね? でしたら……」
「今以上に、もっとリカルドには頑張ってもらわなければな」
「はい!? 何を仰っていられるのですか?」
「おっと、時間だ。イレーネを待たせるわけにはいかないから、もう出かけるからな。とにかく電話がかかってきたら、しっかりメモを残しておけよ」
それだけ告げると、ルシアンは急ぎ足で書斎を出ていった。
「……全く、ルシアン様は……すっかりデート気分でいらっしゃるようだ。仕方ない。こちらが協力するしか無いようだな」
リカルドは肩をすくめる。
この頃のマイスター家は本当に平和だった。
やがて大きな転機が訪れるとは誰も思いもせずに――