はじめまして、期間限定のお飾り妻です
13話 完璧な存在
「結婚ですか……? やはり伯爵家の当主になるには、そのような条件も必要になるのですね」
頷くイレーネ。
「ええ、そうなのです。マイスター伯爵家は商事会社も経営しております。そして、取引先の会社経営者も愛妻家の方々が非常に多いのです……」
「それで尚更結婚していることがマイスター伯爵家の当主になるための必須条件ということになるわけなのですね?」
「はい。そこで今回、このような秘密裏の求人を出すことにいたしました」
リカルドは様子をうかがうようにイレーネを見る。ここで勘の良い者ならば、大抵は何を言いたいのか察するのだろうが、イレーネは違う。
「そうなのですか……あの、ですがそれと今回の求人の件とどのような関係があるのでしょうか?」
呑気で鈍いところがある彼女には未だに何のことかさっぱり分からずにキョトンとした顔をしている。
「あ、あの……ここまで言って何かお気づきになりませんか?」
驚いた様子でリカルドが尋ねる。
「はい、申し訳ございませんが……何のことでしょう?」
「え……?」
(そ、そんな……まだこの求人の意図に気付いていないのか!? こうなったら、ストレートに言うしかない)
そこでリカルドは正直に伝えることにした。
「恐らくイレーネさんはメイドの求人だと思い、今回応募されたのでしょう?」
「はい、その通りです」
「募集要項に何かおかしな点があることに気づきませんでしたか?」
「そうですね……24時間体制の勤務だということでしょうか? 基本夜の勤務は無いものの、場合によっては夜勤が入る場合もあるのですよね?」
もう募集要項は頭にすっかり入っているので、スラスラと答えるイレーネ。
「ええ、そこです。もうこうなったら正直に申し上げます。これはメイドの募集ではないのです。実は、この屋敷の主……ルシアン様の妻になっていただける方を捜していたのです」
「そうなのですか。妻……ええ!? つ、妻ですか!?」
これにはさすがのイレーネも驚いた。
「驚くのも無理はないでしょう? けれど、妻と言っても正式な妻になって頂くというわけではありません。要はルシアン様がマイスター伯爵家の当主になるための……いわば仮初の妻。書類上だけの契約妻になっていただける方の募集だったのです」
リカルドは声のトーンを押さえて説明する。
「ですが、契約妻なんて……ルシアン様には婚約者や結婚を約束しているような女性はいらっしゃらないのですか?」
「そのような方がいるのであれば、こちらもこのような苦労などしません。ここだけの話ですが……ルシアン様は過去に色々ありまして……その、すっかり女性嫌いに……いえ、女性に対して不信感を抱くようになってしまったのです。ですから今回当主になるための条件を突きつけられたとき、大層憤慨しておりました」
ため息を付きながらリカルドは首を振る。
「なるほど、色々御苦労されたのですね……」
「はい、そうなのです。結婚する気など微塵もないルシアン様はそのような条件を取り下げてもらうように、現当主に何度も掛け合いましたが認めてくれません。それならば、たとえ独身でも取引先の信頼を得ればいいのだろうと駆けずり回っているのですが……どうやら裏で現当主様が手を回しているらしく……」
「もしかすると、結婚していないので相手にされていないということなのでしょうか?」
「はい! その通りです! そこで今もルシアン様は信頼を勝ち取るためにあちこち飛び回り、説得に回っている次第なのであります。ですが……そのようなことをしても無駄だと思います。恐らく、現当主様の本当の狙いはルシアン様の結婚でしょうから。もう一人の当主候補の方は単なる当て馬に過ぎません」
「当て馬ですか……」
その言葉に、イレーネは思った。
よほど、もうひとりの当主候補の相手は周囲から信頼されていないのだろうと。
「そこで我々は考えました。それならばルシアン様には、結婚していただくしか無いだろうと。それで今回このような求人を出させていただきました。イレーネさん、貴女は完璧です! どうか……1年間! 1年間だけの期間限定でルシアン様の妻を演じて頂けないでしょうか!?」
リカルドは身を乗り出してイレーネを見つめた――
頷くイレーネ。
「ええ、そうなのです。マイスター伯爵家は商事会社も経営しております。そして、取引先の会社経営者も愛妻家の方々が非常に多いのです……」
「それで尚更結婚していることがマイスター伯爵家の当主になるための必須条件ということになるわけなのですね?」
「はい。そこで今回、このような秘密裏の求人を出すことにいたしました」
リカルドは様子をうかがうようにイレーネを見る。ここで勘の良い者ならば、大抵は何を言いたいのか察するのだろうが、イレーネは違う。
「そうなのですか……あの、ですがそれと今回の求人の件とどのような関係があるのでしょうか?」
呑気で鈍いところがある彼女には未だに何のことかさっぱり分からずにキョトンとした顔をしている。
「あ、あの……ここまで言って何かお気づきになりませんか?」
驚いた様子でリカルドが尋ねる。
「はい、申し訳ございませんが……何のことでしょう?」
「え……?」
(そ、そんな……まだこの求人の意図に気付いていないのか!? こうなったら、ストレートに言うしかない)
そこでリカルドは正直に伝えることにした。
「恐らくイレーネさんはメイドの求人だと思い、今回応募されたのでしょう?」
「はい、その通りです」
「募集要項に何かおかしな点があることに気づきませんでしたか?」
「そうですね……24時間体制の勤務だということでしょうか? 基本夜の勤務は無いものの、場合によっては夜勤が入る場合もあるのですよね?」
もう募集要項は頭にすっかり入っているので、スラスラと答えるイレーネ。
「ええ、そこです。もうこうなったら正直に申し上げます。これはメイドの募集ではないのです。実は、この屋敷の主……ルシアン様の妻になっていただける方を捜していたのです」
「そうなのですか。妻……ええ!? つ、妻ですか!?」
これにはさすがのイレーネも驚いた。
「驚くのも無理はないでしょう? けれど、妻と言っても正式な妻になって頂くというわけではありません。要はルシアン様がマイスター伯爵家の当主になるための……いわば仮初の妻。書類上だけの契約妻になっていただける方の募集だったのです」
リカルドは声のトーンを押さえて説明する。
「ですが、契約妻なんて……ルシアン様には婚約者や結婚を約束しているような女性はいらっしゃらないのですか?」
「そのような方がいるのであれば、こちらもこのような苦労などしません。ここだけの話ですが……ルシアン様は過去に色々ありまして……その、すっかり女性嫌いに……いえ、女性に対して不信感を抱くようになってしまったのです。ですから今回当主になるための条件を突きつけられたとき、大層憤慨しておりました」
ため息を付きながらリカルドは首を振る。
「なるほど、色々御苦労されたのですね……」
「はい、そうなのです。結婚する気など微塵もないルシアン様はそのような条件を取り下げてもらうように、現当主に何度も掛け合いましたが認めてくれません。それならば、たとえ独身でも取引先の信頼を得ればいいのだろうと駆けずり回っているのですが……どうやら裏で現当主様が手を回しているらしく……」
「もしかすると、結婚していないので相手にされていないということなのでしょうか?」
「はい! その通りです! そこで今もルシアン様は信頼を勝ち取るためにあちこち飛び回り、説得に回っている次第なのであります。ですが……そのようなことをしても無駄だと思います。恐らく、現当主様の本当の狙いはルシアン様の結婚でしょうから。もう一人の当主候補の方は単なる当て馬に過ぎません」
「当て馬ですか……」
その言葉に、イレーネは思った。
よほど、もうひとりの当主候補の相手は周囲から信頼されていないのだろうと。
「そこで我々は考えました。それならばルシアン様には、結婚していただくしか無いだろうと。それで今回このような求人を出させていただきました。イレーネさん、貴女は完璧です! どうか……1年間! 1年間だけの期間限定でルシアン様の妻を演じて頂けないでしょうか!?」
リカルドは身を乗り出してイレーネを見つめた――