はじめまして、期間限定のお飾り妻です
138話 運命のレセプション ⑦
会場に戻ると、もう既に煩い記者達の姿はいなくなっていた。
「イレーネ……どこだ……?」
ルシアンは必死で探し回るも、何処にも姿は見えない。
するとそこへ声を掛けてくる人物がいた。
「マイスター伯爵」
「あ、あなたは……ガストン卿!」
彼は重要な取引先企業の社長だった。
「一体、先程の騒ぎは何だね? 随分記者達に取り囲まれていたようだが……まさか君の婚約者が、あの世界の歌姫のベアトリス令嬢だとは思わなかったよ」
「いえ、彼女は……私の婚約者ではありません。2年前に終わった仲です。今の婚約者は別の女性です。……美しくて、控えめながらも朗らかな女性で……とても大切な存在です」
ルシアンの脳裏に、笑顔を見せるイレーネの姿が浮かぶ。
「マイスター伯爵……余程その女性のことを愛されているのですな」
「そうです、その彼女とはぐれてしまって……なので、申し訳ございません! 彼女を……イレーネを捜さなくてはならないので! 失礼します!」
ルシアンはそれだけ告げると、急いでその場を後にした。
(ガストン卿も、あの騒ぎを知っていた……ということはイレーネにも見られてしまった可能性がある!)
そのことを思うと、ルシアンの胸は痛んだ。
(一緒に会場に入り、婚約者として紹介されるはずだったのに……あんな場面を見せられてはどれだけ……傷ついたことだろう……!)
そこで、ふとルシアンは足を止めた。
「そうだ……イレーネは……最初から俺のことを単なる契約相手としてしか見てくれてはいなかったんだ……だったら、何とも思うはずは……」
急に虚しさが胸に込み上げてくる。
(それでも今はイレーネを捜して……きちんと説明しなければ! そして今更だが……自分の本当の気持ちを彼女に告げなければ……!)
再びルシアンは走り始めた。
けれど会場内をくまなく探すも、イレーネは見つからない。
「はぁ……はぁ……い、一体イレーネは何処に行ったんだ……?」
もはや、レセプションどころではなかった。
以前のルシアンなら、イレーネを後回しにして挨拶周りをしていたかもしれない。
だが、今自分の心を占めているのはイレーネだけだった。
「こんなに捜してもいないということは……先に帰ってしまったのだろうか……?」
だが、勝手に帰るような性格の女性ではないことをルシアンは理解している。
「そうだ、受付に行って聞いてみよう」
思い立ったルシアンは会場の外にある受付へ足を向けた。
**
「ええっ!? か、帰った!? そ、それはいつ頃です!?」
受付にルシアンの声が響き渡る。
「はい、今から約1時間程前になるでしょうか? 伝言を承っています」
受付の男性にメモを手渡され、急いで目を通すルシアン。
『申し訳ございませんが、お先に失礼いたします。今夜は友人の家に泊まらせていただくことになりました』
それはとても短い文面だったが、イレーネらしく丁寧な文字だった。
(友人……? もしかしてブリジット嬢のことだろうか? 彼女もこのレセプションに来ていたのか……?)
ため息をつき、メモをたたもうとしたとき。
「ん? 何か裏に書いてあるな……?」
裏側にも短い文章が書いてあることに気付き、ひっくり返してみた。
『ありがとうございました』
「イレーネ……」
それはまるで別れの言葉のようで……ルシアンは血の気が引いていくのを感じた――
「イレーネ……どこだ……?」
ルシアンは必死で探し回るも、何処にも姿は見えない。
するとそこへ声を掛けてくる人物がいた。
「マイスター伯爵」
「あ、あなたは……ガストン卿!」
彼は重要な取引先企業の社長だった。
「一体、先程の騒ぎは何だね? 随分記者達に取り囲まれていたようだが……まさか君の婚約者が、あの世界の歌姫のベアトリス令嬢だとは思わなかったよ」
「いえ、彼女は……私の婚約者ではありません。2年前に終わった仲です。今の婚約者は別の女性です。……美しくて、控えめながらも朗らかな女性で……とても大切な存在です」
ルシアンの脳裏に、笑顔を見せるイレーネの姿が浮かぶ。
「マイスター伯爵……余程その女性のことを愛されているのですな」
「そうです、その彼女とはぐれてしまって……なので、申し訳ございません! 彼女を……イレーネを捜さなくてはならないので! 失礼します!」
ルシアンはそれだけ告げると、急いでその場を後にした。
(ガストン卿も、あの騒ぎを知っていた……ということはイレーネにも見られてしまった可能性がある!)
そのことを思うと、ルシアンの胸は痛んだ。
(一緒に会場に入り、婚約者として紹介されるはずだったのに……あんな場面を見せられてはどれだけ……傷ついたことだろう……!)
そこで、ふとルシアンは足を止めた。
「そうだ……イレーネは……最初から俺のことを単なる契約相手としてしか見てくれてはいなかったんだ……だったら、何とも思うはずは……」
急に虚しさが胸に込み上げてくる。
(それでも今はイレーネを捜して……きちんと説明しなければ! そして今更だが……自分の本当の気持ちを彼女に告げなければ……!)
再びルシアンは走り始めた。
けれど会場内をくまなく探すも、イレーネは見つからない。
「はぁ……はぁ……い、一体イレーネは何処に行ったんだ……?」
もはや、レセプションどころではなかった。
以前のルシアンなら、イレーネを後回しにして挨拶周りをしていたかもしれない。
だが、今自分の心を占めているのはイレーネだけだった。
「こんなに捜してもいないということは……先に帰ってしまったのだろうか……?」
だが、勝手に帰るような性格の女性ではないことをルシアンは理解している。
「そうだ、受付に行って聞いてみよう」
思い立ったルシアンは会場の外にある受付へ足を向けた。
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「ええっ!? か、帰った!? そ、それはいつ頃です!?」
受付にルシアンの声が響き渡る。
「はい、今から約1時間程前になるでしょうか? 伝言を承っています」
受付の男性にメモを手渡され、急いで目を通すルシアン。
『申し訳ございませんが、お先に失礼いたします。今夜は友人の家に泊まらせていただくことになりました』
それはとても短い文面だったが、イレーネらしく丁寧な文字だった。
(友人……? もしかしてブリジット嬢のことだろうか? 彼女もこのレセプションに来ていたのか……?)
ため息をつき、メモをたたもうとしたとき。
「ん? 何か裏に書いてあるな……?」
裏側にも短い文章が書いてあることに気付き、ひっくり返してみた。
『ありがとうございました』
「イレーネ……」
それはまるで別れの言葉のようで……ルシアンは血の気が引いていくのを感じた――