はじめまして、期間限定のお飾り妻です
143話 それぞれの思い
8時半――
イレーネとケヴィンは『デリア』の駅前に到着した。
ケヴィンに馬から降ろしてもらい、荷物を手渡されるとイレーネは笑顔でお礼を述べた。
「ケヴィンさん、短い間でしたが本当に色々お世話になりました。どうか、お元気で。警察官のお仕事も頑張って下さいね」
「イレーネさん……」
すると思い詰めた表情でケヴィンはイレーネを見つめる。
「どうかしましたか?」
「……行かないで下さい」
「え?」
以外な言葉にイレーネは驚いた。
「昨夜、あんなことになって……『デリア』に残りたくない気持ちは分かりますが……どうか、お願いします」
ケヴィンの顔はどこか苦しげだった。
「あの……何故でしょうか?」
イレーネはケヴィンが何故自分を引き留めようとしているのか分からなかった。
するとケヴィンは一歩イレーネに近づいた。
「不謹慎なのは分かっています。……こんなことを言われても迷惑に思われるかも知れませんが……僕はあなたに惹かれています。いや、違うな。イレーネさんが好きです。多分、初めて会ったときから」
「ケヴィンさん……」
思いもしない告白にイレーネの目が見開かれる。
「イレーネさんにはもう、婚約者はいないのですよね? もし……少しでも僕のことを受け入れてくれる気持ちがあるなら、どうか……故郷に帰らないでいただけませんか? お願いです」
ケヴィンはイレーネに頭を下げてきた――
****
「……はい。必ず対処します……はい。分かっています。……失礼致します」
ため息をつくと、ルシアンは電話を切った。
「伯爵様は何と仰っておりましたか?」
その様子を見ていたリカルドが尋ねる。
「激怒していたよ。一体どういうことだとね。ベアトリスのことは誤解だと説明したら、早急に解決しろと言われた」
「そうでしたか。当主の件は何と言われましたか?」
「今更取り消しは出来ないが、ベアトリスの件を解決出来なければ、考え直す必要があると言っていた」
「そうでしたか。それでは私はこれからブリジット嬢の御自宅へ伺ってみます」
リカルドは上着を羽織った。
「すまないな。……だが、本当にイレーネはブリジット嬢の家にいるだろうか……?」
「さぁ、こればかりは伺ってみなければ分かりません。では今から行ってまいります」
「頼む、俺はこれからベアトリスと話をつけてくる。先ずは、彼女が何処のホテルに泊まっているか調べないと……」
その時、フットマンが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「た、た、た、大変です! ルシアン様!」
「何だ!? また何かあったのか? もう勘弁してくれ! このままでは心臓が持たなくなりそうだ!」
頭を抱えるルシアンに変わって、リカルドが尋ねた。
「何が大変なのですか?」
「は、はい……それが、大勢の記者達が屋敷の門に押し寄せているのですよ! ルシアン様にどうしても話が聞きたいと言って!」
「な、何ですって!」
顔から血の気が引くリカルド。しかし、ルシアンの反応は違った。
「そうか……それは都合がいいな。これは使えそうだ……」
「ルシアン様。何が使えるのですか?」
リカルドが首をひねる。
「記者たちだよ。ベアトリスが彼らを利用したなら、今度はこちらが記者たちを利用する番だ。リカルドは裏門から出て、ブリジット嬢の元へ行ってくれ。そして……もし仮にイレーネがいたなら、説得して何とか連れ帰って来てくれ。頼む」
「はい、分かりました。ではすぐに行ってまいります!」
リカルドは急ぎ足で出ていくと、ルシアンは椅子から立ち上がった。
「さて、今度はこちらの番だ」
口元に不敵な笑みを浮かべると、ルシアンは記者達の元へ向かった――
イレーネとケヴィンは『デリア』の駅前に到着した。
ケヴィンに馬から降ろしてもらい、荷物を手渡されるとイレーネは笑顔でお礼を述べた。
「ケヴィンさん、短い間でしたが本当に色々お世話になりました。どうか、お元気で。警察官のお仕事も頑張って下さいね」
「イレーネさん……」
すると思い詰めた表情でケヴィンはイレーネを見つめる。
「どうかしましたか?」
「……行かないで下さい」
「え?」
以外な言葉にイレーネは驚いた。
「昨夜、あんなことになって……『デリア』に残りたくない気持ちは分かりますが……どうか、お願いします」
ケヴィンの顔はどこか苦しげだった。
「あの……何故でしょうか?」
イレーネはケヴィンが何故自分を引き留めようとしているのか分からなかった。
するとケヴィンは一歩イレーネに近づいた。
「不謹慎なのは分かっています。……こんなことを言われても迷惑に思われるかも知れませんが……僕はあなたに惹かれています。いや、違うな。イレーネさんが好きです。多分、初めて会ったときから」
「ケヴィンさん……」
思いもしない告白にイレーネの目が見開かれる。
「イレーネさんにはもう、婚約者はいないのですよね? もし……少しでも僕のことを受け入れてくれる気持ちがあるなら、どうか……故郷に帰らないでいただけませんか? お願いです」
ケヴィンはイレーネに頭を下げてきた――
****
「……はい。必ず対処します……はい。分かっています。……失礼致します」
ため息をつくと、ルシアンは電話を切った。
「伯爵様は何と仰っておりましたか?」
その様子を見ていたリカルドが尋ねる。
「激怒していたよ。一体どういうことだとね。ベアトリスのことは誤解だと説明したら、早急に解決しろと言われた」
「そうでしたか。当主の件は何と言われましたか?」
「今更取り消しは出来ないが、ベアトリスの件を解決出来なければ、考え直す必要があると言っていた」
「そうでしたか。それでは私はこれからブリジット嬢の御自宅へ伺ってみます」
リカルドは上着を羽織った。
「すまないな。……だが、本当にイレーネはブリジット嬢の家にいるだろうか……?」
「さぁ、こればかりは伺ってみなければ分かりません。では今から行ってまいります」
「頼む、俺はこれからベアトリスと話をつけてくる。先ずは、彼女が何処のホテルに泊まっているか調べないと……」
その時、フットマンが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。
「た、た、た、大変です! ルシアン様!」
「何だ!? また何かあったのか? もう勘弁してくれ! このままでは心臓が持たなくなりそうだ!」
頭を抱えるルシアンに変わって、リカルドが尋ねた。
「何が大変なのですか?」
「は、はい……それが、大勢の記者達が屋敷の門に押し寄せているのですよ! ルシアン様にどうしても話が聞きたいと言って!」
「な、何ですって!」
顔から血の気が引くリカルド。しかし、ルシアンの反応は違った。
「そうか……それは都合がいいな。これは使えそうだ……」
「ルシアン様。何が使えるのですか?」
リカルドが首をひねる。
「記者たちだよ。ベアトリスが彼らを利用したなら、今度はこちらが記者たちを利用する番だ。リカルドは裏門から出て、ブリジット嬢の元へ行ってくれ。そして……もし仮にイレーネがいたなら、説得して何とか連れ帰って来てくれ。頼む」
「はい、分かりました。ではすぐに行ってまいります!」
リカルドは急ぎ足で出ていくと、ルシアンは椅子から立ち上がった。
「さて、今度はこちらの番だ」
口元に不敵な笑みを浮かべると、ルシアンは記者達の元へ向かった――