はじめまして、期間限定のお飾り妻です
終章 1
「あ……そ、そのすまない。突然抱きしめてしまって」
ルシアンは慌ててイレーネの肩を掴むと、そっと自分から引き離した。
まだ気持ちを告げていないのに、抱きしめてしまったことに罪悪感を抱いたからだ。
「ルシアン様、どうしてこちらに? ここは……」
「分かっている。イレーネの実家だろう? 借金返済のために売却していた大切な場所だ」
ルシアンの言葉にイレーネは気付いた。
「え……? まさか……この家を買ったのは……?」
「そう、俺だ。リカルドから実家の住所を聞いて、売却されていた金額より上乗せして買い上げたんだ。そのお金は……君名義の通帳にもう振り込んである」
「そうだったのですか? それではこの家が退職手当で、振り込まれたお金が退職金ということになるのですね?」
「は……?」
あまりにも見当違いのイレーネの言葉にルシアンは言葉を失う。
「でも、本当に頂いてよろしいのですか? まだ4ヶ月しか働いていませんでしたし、結局契約妻の役割も果たしておりませんでしたのに?」
首を傾げるイレーネ。
「いやいや、ちょ、ちょっと待ってくれ。俺が何故ここに現れたのか疑問に思わないのか?」
「え……と……そうですね。家の管理をする為……? もしくは私に……」
「そう、それだよ!」
「連絡するために、いらして下さったのですか?」
「はぁ!?」
何処までも鈍いイレーネに、ついにルシアンは我慢できなくなった。
「違う! そうじゃない!」
ルシアンは再び、イレーネを引き寄せると強く抱きしめてきた。
「ルシアン……様……?」
「イレーネのことが好きだから、ここまで来たに決まっているだろう!?」
その言葉にイレーネは耳を疑う。
「え……? で、ですが……ルシアン様はベアトリス様と婚約を……」
するとルシアンはイレーネから身体を離し、肩に手を置くと尋ねた。
「君は新聞記事を読んでいないのか?」
「……はい……」
イレーネは目を伏せて頷く。
「そうか……なら、知らなくても当然だな。俺とベアトリスの話は、全くのデタラメだ。レセプションから2日後の新聞には、訂正記事が掲載されたんだ。俺のインタビューつきでな。ベアトリスの話は嘘で、本当は婚約なんかしていないって。そして俺には別に大切な女性がいると記述されている。それが誰のことかは……もう分かるよな?」
じっとイレーネの目を覗き込むルシアン。
「それって……まさか、私のことでしょうか……?」
「勿論だ、そうでなければ俺がここにいるはずないだろう?」
「ほ、本当に……?」
イレーネには信じられなかった。
自分の様な貧しい人間にはルシアンのような立派な身分の男性と釣り合うはずはないと思っていた。
だが、一緒に過ごすうちに徐々にルシアンに惹かれていった。
自分の話を最後まで聞いてくれるところ、不器用だけど優しいところ。 酷い嵐の中、危険も顧みず自分の元へ駆けつけてきたところ……それら全てに。
「俺の言葉が信じられないのも無理はないな……今まであまりにも君に不誠実過ぎたから……しかも、ベアトリスとのあんな記事が出ては仕方ないか……ってええ!? な、何故泣いているんだ!?」
イレーネの瞳に大粒の涙が浮かんでいることにギョッとするルシアン。
「う、嬉しくて……」
イレーネは手で涙を拭う。すると、ルシアンはケヴィンから預かったハンカチをそっと差し出した。
「ありがとうございます……」
ハンカチで涙を拭うイレーネにルシアンは尋ねた。
「イレーネ。今の言葉……俺の気持ちを受け入れてくれるってことで……いいか?」
「はい、私もルシアン様のことが好きです。お慕いしておりました」
笑顔で自分を見つめるイレーネに、ルシアンは意を決して尋ねた。
「……イレーネ。契約結婚は無しにして、俺と……本当に結婚してもらえないか?」
「はい、ルシアン様。……喜んで」
イレーネの目に、再び嬉し涙が浮かぶ。
「イレーネ……君を愛している」
ルシアンがそっとイレーネの頬に手を添える。
「私も……です」
そして2人はどちらからともなく顔を近づけ……初めてのキスを交わした――
ルシアンは慌ててイレーネの肩を掴むと、そっと自分から引き離した。
まだ気持ちを告げていないのに、抱きしめてしまったことに罪悪感を抱いたからだ。
「ルシアン様、どうしてこちらに? ここは……」
「分かっている。イレーネの実家だろう? 借金返済のために売却していた大切な場所だ」
ルシアンの言葉にイレーネは気付いた。
「え……? まさか……この家を買ったのは……?」
「そう、俺だ。リカルドから実家の住所を聞いて、売却されていた金額より上乗せして買い上げたんだ。そのお金は……君名義の通帳にもう振り込んである」
「そうだったのですか? それではこの家が退職手当で、振り込まれたお金が退職金ということになるのですね?」
「は……?」
あまりにも見当違いのイレーネの言葉にルシアンは言葉を失う。
「でも、本当に頂いてよろしいのですか? まだ4ヶ月しか働いていませんでしたし、結局契約妻の役割も果たしておりませんでしたのに?」
首を傾げるイレーネ。
「いやいや、ちょ、ちょっと待ってくれ。俺が何故ここに現れたのか疑問に思わないのか?」
「え……と……そうですね。家の管理をする為……? もしくは私に……」
「そう、それだよ!」
「連絡するために、いらして下さったのですか?」
「はぁ!?」
何処までも鈍いイレーネに、ついにルシアンは我慢できなくなった。
「違う! そうじゃない!」
ルシアンは再び、イレーネを引き寄せると強く抱きしめてきた。
「ルシアン……様……?」
「イレーネのことが好きだから、ここまで来たに決まっているだろう!?」
その言葉にイレーネは耳を疑う。
「え……? で、ですが……ルシアン様はベアトリス様と婚約を……」
するとルシアンはイレーネから身体を離し、肩に手を置くと尋ねた。
「君は新聞記事を読んでいないのか?」
「……はい……」
イレーネは目を伏せて頷く。
「そうか……なら、知らなくても当然だな。俺とベアトリスの話は、全くのデタラメだ。レセプションから2日後の新聞には、訂正記事が掲載されたんだ。俺のインタビューつきでな。ベアトリスの話は嘘で、本当は婚約なんかしていないって。そして俺には別に大切な女性がいると記述されている。それが誰のことかは……もう分かるよな?」
じっとイレーネの目を覗き込むルシアン。
「それって……まさか、私のことでしょうか……?」
「勿論だ、そうでなければ俺がここにいるはずないだろう?」
「ほ、本当に……?」
イレーネには信じられなかった。
自分の様な貧しい人間にはルシアンのような立派な身分の男性と釣り合うはずはないと思っていた。
だが、一緒に過ごすうちに徐々にルシアンに惹かれていった。
自分の話を最後まで聞いてくれるところ、不器用だけど優しいところ。 酷い嵐の中、危険も顧みず自分の元へ駆けつけてきたところ……それら全てに。
「俺の言葉が信じられないのも無理はないな……今まであまりにも君に不誠実過ぎたから……しかも、ベアトリスとのあんな記事が出ては仕方ないか……ってええ!? な、何故泣いているんだ!?」
イレーネの瞳に大粒の涙が浮かんでいることにギョッとするルシアン。
「う、嬉しくて……」
イレーネは手で涙を拭う。すると、ルシアンはケヴィンから預かったハンカチをそっと差し出した。
「ありがとうございます……」
ハンカチで涙を拭うイレーネにルシアンは尋ねた。
「イレーネ。今の言葉……俺の気持ちを受け入れてくれるってことで……いいか?」
「はい、私もルシアン様のことが好きです。お慕いしておりました」
笑顔で自分を見つめるイレーネに、ルシアンは意を決して尋ねた。
「……イレーネ。契約結婚は無しにして、俺と……本当に結婚してもらえないか?」
「はい、ルシアン様。……喜んで」
イレーネの目に、再び嬉し涙が浮かぶ。
「イレーネ……君を愛している」
ルシアンがそっとイレーネの頬に手を添える。
「私も……です」
そして2人はどちらからともなく顔を近づけ……初めてのキスを交わした――