はじめまして、期間限定のお飾り妻です
16話 面接の後で
面接? が終わったのは午後6時を過ぎていた。
「私のせいで、このようなお時間までお待たせしてしまい申し訳ございませんでした」
イレーネのサインが書かれた婚姻届を封筒にしまうリカルド。
「いえ、私が何も連絡も無しに伺ったのですから大丈夫です」
散々待たされたことを気にする素振りもなく、イレーネは笑顔を見せる。
「ですが、それも募集要項に私以外の誰にも求人の件で来訪した旨を説明しないようにと記してあったからですよね……」
リカルドは申し訳なくて仕方がなかった。散々待たせてしまった挙げ句に、今度はこちらの勝手な都合で契約結婚をさせてしまうのだから。
「この度はイレーネさんに多大なる負担ばかりかけてしまいました。お詫びと言ってはなんですが、何か今お困りのことがあるようでしたら何なりとお申し付け下さい。私に出来る精一杯のお礼を致しますので」
「え……? それは本当……ですか?」
その言葉にイレーネは目を見開く。実は先程からイレーネはずっと困っていたのだ。けれど、なかなか言い出せずにいた。何故ならそれは……
ぐぅううう〜……
突如、静かな部屋にお腹の鳴る音が響く。
「え……?」
リカルドはその音に驚き、イレーネを見つめる。
(ま、まさか……?)
イレーネの顔は羞恥心の為か、真っ赤になっている。そしてリカルドの視線に気づき、言いにくそうに言葉を紡いだ。
「す、すみません……お腹が……空いてしまって……お恥ずかしいです……」
そして俯く。
イレーネは今までずっと空腹に耐えていたのだ。途中、リカルドにお茶は淹れてもらったので喉の乾きは無かったが、空腹だけはどうしようもない。
何しろ、汽車の中で食事をして以来何も口にしていなかったのだから。
「あ……! こ、これは気付かずに大変申し訳ございませんでした! そうですよね……。今までずっと私が来るのを何時間もこの部屋でお待たせしてしまったのですから……お待ち下さい! 厨房に行って、今すぐ口に出来る食事を用意するように伝えてまいりますので!」
「あ、あの。そんなに慌てなくても私なら大丈夫ですよ……?」
リカルドのあまりの慌てようにイレーネは声をかける。
「いいえ、そうはまいりません。どうぞこちらのお部屋でお待ち下さい。15分……いえ、10分以内に必ず戻ってまいりますので!」
「え? あ……はい、分かりました」
「それではできるだけ早く戻ってまいります。あ、そうだ。イレーネさんは何か苦手な食べ物はありますか?」
「いいえ、好き嫌いはありません。何でも美味しく頂く方なので」
「かしこまりました。ではすぐに行ってまいりますね!」
リカルドは脱兎の如く、応接室を飛び出していった。そしてその様子を見守るイレーネ。
「……確か、リカルド様とおっしゃったかしら……随分せっかちな方なのね? 私なら一日一食で過ごしたこともあるから大丈夫なのに……」
イレーネは祖父の看病をしていた頃は、自分は空腹なのを我慢して病人の祖父にだけ栄養のある食事を用意していたこともある。なので空腹にはある程度は慣れていたのだ。
「でも、まさかお腹が鳴ってしまうとは思わなかったわ……恥ずかしいわ。私も淑女としてまだまだね」
そんなことを呟いたとき――
「誰だ? 君は」
不意に応接室に声が響き渡り、イレーネは顔を上げた。
すると、扉の前には仕立ての良いスーツを着たハニーブラウンの髪色の若い男性がこちらをじっと見つめて立っていた――
「私のせいで、このようなお時間までお待たせしてしまい申し訳ございませんでした」
イレーネのサインが書かれた婚姻届を封筒にしまうリカルド。
「いえ、私が何も連絡も無しに伺ったのですから大丈夫です」
散々待たされたことを気にする素振りもなく、イレーネは笑顔を見せる。
「ですが、それも募集要項に私以外の誰にも求人の件で来訪した旨を説明しないようにと記してあったからですよね……」
リカルドは申し訳なくて仕方がなかった。散々待たせてしまった挙げ句に、今度はこちらの勝手な都合で契約結婚をさせてしまうのだから。
「この度はイレーネさんに多大なる負担ばかりかけてしまいました。お詫びと言ってはなんですが、何か今お困りのことがあるようでしたら何なりとお申し付け下さい。私に出来る精一杯のお礼を致しますので」
「え……? それは本当……ですか?」
その言葉にイレーネは目を見開く。実は先程からイレーネはずっと困っていたのだ。けれど、なかなか言い出せずにいた。何故ならそれは……
ぐぅううう〜……
突如、静かな部屋にお腹の鳴る音が響く。
「え……?」
リカルドはその音に驚き、イレーネを見つめる。
(ま、まさか……?)
イレーネの顔は羞恥心の為か、真っ赤になっている。そしてリカルドの視線に気づき、言いにくそうに言葉を紡いだ。
「す、すみません……お腹が……空いてしまって……お恥ずかしいです……」
そして俯く。
イレーネは今までずっと空腹に耐えていたのだ。途中、リカルドにお茶は淹れてもらったので喉の乾きは無かったが、空腹だけはどうしようもない。
何しろ、汽車の中で食事をして以来何も口にしていなかったのだから。
「あ……! こ、これは気付かずに大変申し訳ございませんでした! そうですよね……。今までずっと私が来るのを何時間もこの部屋でお待たせしてしまったのですから……お待ち下さい! 厨房に行って、今すぐ口に出来る食事を用意するように伝えてまいりますので!」
「あ、あの。そんなに慌てなくても私なら大丈夫ですよ……?」
リカルドのあまりの慌てようにイレーネは声をかける。
「いいえ、そうはまいりません。どうぞこちらのお部屋でお待ち下さい。15分……いえ、10分以内に必ず戻ってまいりますので!」
「え? あ……はい、分かりました」
「それではできるだけ早く戻ってまいります。あ、そうだ。イレーネさんは何か苦手な食べ物はありますか?」
「いいえ、好き嫌いはありません。何でも美味しく頂く方なので」
「かしこまりました。ではすぐに行ってまいりますね!」
リカルドは脱兎の如く、応接室を飛び出していった。そしてその様子を見守るイレーネ。
「……確か、リカルド様とおっしゃったかしら……随分せっかちな方なのね? 私なら一日一食で過ごしたこともあるから大丈夫なのに……」
イレーネは祖父の看病をしていた頃は、自分は空腹なのを我慢して病人の祖父にだけ栄養のある食事を用意していたこともある。なので空腹にはある程度は慣れていたのだ。
「でも、まさかお腹が鳴ってしまうとは思わなかったわ……恥ずかしいわ。私も淑女としてまだまだね」
そんなことを呟いたとき――
「誰だ? 君は」
不意に応接室に声が響き渡り、イレーネは顔を上げた。
すると、扉の前には仕立ての良いスーツを着たハニーブラウンの髪色の若い男性がこちらをじっと見つめて立っていた――