はじめまして、期間限定のお飾り妻です
20話 イレーネの訴え
30分後――
「待たせてしまったな」
「どうもお待たせ致しました」
ルシアンとリカルドがイレーネの待つ応接間に戻ってきた。
「いいえ、この程度の時間など少しも待たされたうちに入りませんわ」
イレーネは立ち上がると、ニコニコしながら返事をする。すると、その言葉にたちまちリカルドは申し訳無さそうに謝った。
「そうですよね……本日、既に私は5時間もイレーネさんをお待たせしてしまいましたから……本当に申し訳ございませんでした」
「何!? リカルド……お前、彼女を5時間も待たせたのか!? そんな話、初耳だぞ!」
驚いてリカルドを見るルシアン。すると、そこへイレーネが声をかける。
「いいえ、リカルド様は悪くはありません。私がアポイントも無しに、このお屋敷に伺ってしまったからですわ。色々お忙しい方でいらっしゃるのに……こちらこそ申し訳ございません」
「イレーネさん……なんて、あなたは心の広い女性なのでしょう……」
感動で目をうるませるリカルド。
「いいや、いくら何でも5時間は待たせすぎた。……折角訪ねて来たのに、悪かった。申し訳ない」
ルシアンはイレーネに謝罪の言葉を述べる。
「いいえ、私なら本当に大丈夫ですから。先程だって、格別に美味しいサンドイッチを頂きましたし。何よりも、これほどまでに素晴らしいお仕事に巡り会えたのですから」
「仕事……」
(俺との契約結婚が、仕事だって……?)
その言葉に何やら釈然としない気持ちがこみ上げてくる。そこへ追い打ちをかけるようにリカルドがルシアンの耳元で囁いた。
「どうです? 先程、申し上げた通りだと思いませんか? イレーネさんは完全にルシアン様との結婚を仕事だと割り切っています。これほどピッタリの女性は他におりませんよ?」
「う、うるさい。お前は黙っていろ。後は俺が話す」
イレーネの手前、ルシアンは小声で言い返すと再びイレーネに視線を移し……まだお互いが立ったままであることに気付いた。
「そうだった。いつまでも立たせてしまっていたな。掛けてくれ」
「はい、では失礼いたします」
ソファに腰掛けたイレーネを見届けると、その向かい側にルシアンは座った。
「それでイレーネ嬢。早速本題に入りたいのだが……いいだろうか?」
「はい、大丈夫ですが……その前に、一つだけ……お話してもよろしいでしょうか……?」
言いにくそうにイレーネが口を開く。
「ああ、何だ? 言ってみろ」
(いくらリカルドの勝手な行動とは言え、彼女は何も悪くない。5時間も待たせてしまったのだから、話ぐらい聞いてやらないと)
すると、思いがけないセリフがイレーネの口から飛び出した。
「実は……このままでは『コルト』行きの最終列車が無くなってしまうのです。そこで今夜の宿のことで、御相談があるのですが……」
「「今夜の宿??」」
ルシアンとリカルドの声が重なる。
「はい、そうです。大変図々しいお願いであるとは分かっておりますが……実は、今夜の宿代のお金が無いのです。そこで給金の前借りか……もしくは、ここに泊めていただくことは出来ないでしょうか? ベッドなど無くても、ソファの上だって私は一向に構いません。どうかお願いいたします!」
イレーネは恥を忍んで、訴えた――
「待たせてしまったな」
「どうもお待たせ致しました」
ルシアンとリカルドがイレーネの待つ応接間に戻ってきた。
「いいえ、この程度の時間など少しも待たされたうちに入りませんわ」
イレーネは立ち上がると、ニコニコしながら返事をする。すると、その言葉にたちまちリカルドは申し訳無さそうに謝った。
「そうですよね……本日、既に私は5時間もイレーネさんをお待たせしてしまいましたから……本当に申し訳ございませんでした」
「何!? リカルド……お前、彼女を5時間も待たせたのか!? そんな話、初耳だぞ!」
驚いてリカルドを見るルシアン。すると、そこへイレーネが声をかける。
「いいえ、リカルド様は悪くはありません。私がアポイントも無しに、このお屋敷に伺ってしまったからですわ。色々お忙しい方でいらっしゃるのに……こちらこそ申し訳ございません」
「イレーネさん……なんて、あなたは心の広い女性なのでしょう……」
感動で目をうるませるリカルド。
「いいや、いくら何でも5時間は待たせすぎた。……折角訪ねて来たのに、悪かった。申し訳ない」
ルシアンはイレーネに謝罪の言葉を述べる。
「いいえ、私なら本当に大丈夫ですから。先程だって、格別に美味しいサンドイッチを頂きましたし。何よりも、これほどまでに素晴らしいお仕事に巡り会えたのですから」
「仕事……」
(俺との契約結婚が、仕事だって……?)
その言葉に何やら釈然としない気持ちがこみ上げてくる。そこへ追い打ちをかけるようにリカルドがルシアンの耳元で囁いた。
「どうです? 先程、申し上げた通りだと思いませんか? イレーネさんは完全にルシアン様との結婚を仕事だと割り切っています。これほどピッタリの女性は他におりませんよ?」
「う、うるさい。お前は黙っていろ。後は俺が話す」
イレーネの手前、ルシアンは小声で言い返すと再びイレーネに視線を移し……まだお互いが立ったままであることに気付いた。
「そうだった。いつまでも立たせてしまっていたな。掛けてくれ」
「はい、では失礼いたします」
ソファに腰掛けたイレーネを見届けると、その向かい側にルシアンは座った。
「それでイレーネ嬢。早速本題に入りたいのだが……いいだろうか?」
「はい、大丈夫ですが……その前に、一つだけ……お話してもよろしいでしょうか……?」
言いにくそうにイレーネが口を開く。
「ああ、何だ? 言ってみろ」
(いくらリカルドの勝手な行動とは言え、彼女は何も悪くない。5時間も待たせてしまったのだから、話ぐらい聞いてやらないと)
すると、思いがけないセリフがイレーネの口から飛び出した。
「実は……このままでは『コルト』行きの最終列車が無くなってしまうのです。そこで今夜の宿のことで、御相談があるのですが……」
「「今夜の宿??」」
ルシアンとリカルドの声が重なる。
「はい、そうです。大変図々しいお願いであるとは分かっておりますが……実は、今夜の宿代のお金が無いのです。そこで給金の前借りか……もしくは、ここに泊めていただくことは出来ないでしょうか? ベッドなど無くても、ソファの上だって私は一向に構いません。どうかお願いいたします!」
イレーネは恥を忍んで、訴えた――