はじめまして、期間限定のお飾り妻です
22話 ちぐはぐ? な食事会
19時――
書斎でルシアンとイレーネはテーブルに向かい合わせで着席していた。
「ほ、本当に……こちらのお料理を頂いてもよろしいのでしょうか?」
イレーネは並べられた豪華な食事とルシアンの顔を交互に見ながら尋ねる。数えただけで料理の種類は7種類もあった。
「勿論だ。……本来なら、ここでワインでもつけるところだが……今夜は大事な話があるから、悪いがアルコールは無しだ」
「ワインだなんて……! とんでもありません! 私はお水で結構ですので、どうぞお気遣いなさらないで下さい。まぁ……グラスが素敵だと、普段のお水もとても美味しそうに見えますね」
イレーネはグラスに注がれた水を見つめ、そんな彼女を呆れた様子で見つめるルシアン。
「イレーネ様……なんと、健気な……それ程までに御苦労されていたのですね……」
ある程度の事情は把握しているリカルドが給仕の手を止めて、ハンカチで目頭を抑える。
「一体、何なんだ? この雰囲気は……まぁいい。食事を始めようか?」
額に手を当て、ため息をつくとルシアンはイレーネに食事を勧めた。
「はい! ありがとうございます!」
元気に返事をすると、イレーネは早速フォークとナイフを手にした。
「ふ〜ん……」
イレーネが食事をする様子を観察しながら、ルシアンも料理を口に運ぶ。
(少々……というか、かなり風変わりな女だと思っていたが……テーブルマナーは完璧だな。シエラ家なんて貴族は聞いたこともないが、それなりに教育は受けてきたのかもしれない)
イレーネを育ててくれた祖父は、彼女がどこへ行っても恥じないように貴族令嬢の行儀作法を身につけさせた。それだけではなく、貧しいながらも学校にも通わせてくれたのだった。
「早速だが、イレーネ嬢。食事をしながらで構わないので話をさせてくれ」
ルシアンが声をかける。
「はい、マイスター伯爵様」
笑みを浮かべて返事をする。
「リカルドの話によると、君は婚姻届に迷わずサインしたと言うが……本当に構わないのか? この結婚は正式なものではない。期間限定の結婚で、1年後には離婚するんだぞ?」
「はい、伺っております。毎月30万ジュエルのお給金を頂ける上、退職金、それに家のプレゼント。そして次の就職先の紹介状まで書いて頂けるのですよね?」
「は? 君は一体何を言ってるんだ? 俺はそんなことを聞いているわけじゃない。俺と婚姻して離婚をすると、君の戸籍に傷がつく。それに3年間は再婚出来ないんだぞ? それでも構わないのかと聞いているんだ」
自分の質問とは見当違いの答えを返すイレーネにルシアンは半ば呆れながら尋ねた。
「はい、構いません」
「そ、即答……?」
ガタンッ!!
驚きで、思わずルシアンは椅子から落ちそうになった。
「大丈夫ですか!? ルシアン様!」
近くにいたリカルドが咄嗟に手でルシアンを支える。
「あ、ああ……大丈夫だ……少し、ほんの少し驚いただけだ……」
何とか体制を整えたルシアンにイレーネは声をかける。
「あの……大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫だ!」
憮然とした表情で返事をすると、ルシアンはグラスの水を飲んだ。
「と、とにかく……イレーネ嬢の決意は固いということだな? 後で契約は無効だとか、このままずっと結婚生活を続けたいと言うのも無しだからな? 1年後、一切の文句を言わずに離婚することを約束してもらおう」
「ええ、勿論です。私は期間限定のお飾り妻。そのことはきちんとわきまえていますので」
「う、うむ……その言葉、忘れるなよ?」
念押しするルシアン。
「はい、お約束はきちんとお守りいたします。それにしても……本当に美味しいお料理ですね」
イレーネは料理を口に運ぶと笑みを浮かべた――
書斎でルシアンとイレーネはテーブルに向かい合わせで着席していた。
「ほ、本当に……こちらのお料理を頂いてもよろしいのでしょうか?」
イレーネは並べられた豪華な食事とルシアンの顔を交互に見ながら尋ねる。数えただけで料理の種類は7種類もあった。
「勿論だ。……本来なら、ここでワインでもつけるところだが……今夜は大事な話があるから、悪いがアルコールは無しだ」
「ワインだなんて……! とんでもありません! 私はお水で結構ですので、どうぞお気遣いなさらないで下さい。まぁ……グラスが素敵だと、普段のお水もとても美味しそうに見えますね」
イレーネはグラスに注がれた水を見つめ、そんな彼女を呆れた様子で見つめるルシアン。
「イレーネ様……なんと、健気な……それ程までに御苦労されていたのですね……」
ある程度の事情は把握しているリカルドが給仕の手を止めて、ハンカチで目頭を抑える。
「一体、何なんだ? この雰囲気は……まぁいい。食事を始めようか?」
額に手を当て、ため息をつくとルシアンはイレーネに食事を勧めた。
「はい! ありがとうございます!」
元気に返事をすると、イレーネは早速フォークとナイフを手にした。
「ふ〜ん……」
イレーネが食事をする様子を観察しながら、ルシアンも料理を口に運ぶ。
(少々……というか、かなり風変わりな女だと思っていたが……テーブルマナーは完璧だな。シエラ家なんて貴族は聞いたこともないが、それなりに教育は受けてきたのかもしれない)
イレーネを育ててくれた祖父は、彼女がどこへ行っても恥じないように貴族令嬢の行儀作法を身につけさせた。それだけではなく、貧しいながらも学校にも通わせてくれたのだった。
「早速だが、イレーネ嬢。食事をしながらで構わないので話をさせてくれ」
ルシアンが声をかける。
「はい、マイスター伯爵様」
笑みを浮かべて返事をする。
「リカルドの話によると、君は婚姻届に迷わずサインしたと言うが……本当に構わないのか? この結婚は正式なものではない。期間限定の結婚で、1年後には離婚するんだぞ?」
「はい、伺っております。毎月30万ジュエルのお給金を頂ける上、退職金、それに家のプレゼント。そして次の就職先の紹介状まで書いて頂けるのですよね?」
「は? 君は一体何を言ってるんだ? 俺はそんなことを聞いているわけじゃない。俺と婚姻して離婚をすると、君の戸籍に傷がつく。それに3年間は再婚出来ないんだぞ? それでも構わないのかと聞いているんだ」
自分の質問とは見当違いの答えを返すイレーネにルシアンは半ば呆れながら尋ねた。
「はい、構いません」
「そ、即答……?」
ガタンッ!!
驚きで、思わずルシアンは椅子から落ちそうになった。
「大丈夫ですか!? ルシアン様!」
近くにいたリカルドが咄嗟に手でルシアンを支える。
「あ、ああ……大丈夫だ……少し、ほんの少し驚いただけだ……」
何とか体制を整えたルシアンにイレーネは声をかける。
「あの……大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫だ!」
憮然とした表情で返事をすると、ルシアンはグラスの水を飲んだ。
「と、とにかく……イレーネ嬢の決意は固いということだな? 後で契約は無効だとか、このままずっと結婚生活を続けたいと言うのも無しだからな? 1年後、一切の文句を言わずに離婚することを約束してもらおう」
「ええ、勿論です。私は期間限定のお飾り妻。そのことはきちんとわきまえていますので」
「う、うむ……その言葉、忘れるなよ?」
念押しするルシアン。
「はい、お約束はきちんとお守りいたします。それにしても……本当に美味しいお料理ですね」
イレーネは料理を口に運ぶと笑みを浮かべた――