はじめまして、期間限定のお飾り妻です
26話 執事とルシアンの会話
9時――
ルシアンは書斎でリカルドに尋問していた。
「全く……お前は、どうして肝心なことを言わない? イレーネ嬢に借金があって、住む場所も無くしそうだということを何故黙っていた?」
「申し訳ございません。ただ、こちらは非常にデリケートな話でありまして……私はイレーネさんのマイナス評価になりそうな部分を伏せておきたかったのです。プライバシーの問題でもありましたし。いずれ、ご本人の口からルシアン様に告げられるだろうと思いましたので……」
その言葉にルシアンはため息をつく。
「……別に、そんなことで彼女の評価を下げたりなどしない。遊んで自ら借金を作ってしまうような女性では無いことくらい、見て分かったしな」
すると、リカルドが意味深な笑みを浮かべる。
「おやぁ……ルシアン様。もうイレーネさんの人となりが分かったような口ぶりですね?」
「な、何だ? その顔は……?」
「いえ、何でもありません。ですが……素敵な女性だとは思いませんか? 外見もさることながら、性格も」
「……だが、所詮は女だ」
ルシアンは視線をそらせる。
「ルシアン様、ですが……」
「それよりもだ! どういうことだ? 何故彼女があのドレスを着ていたのだ?」
「それは、イレーネさんが着替えを持ってきていなかったからです。でもよくお似合いでした。そうは思いませんでしたか?」
「そんなことはどうでもいい。俺が言いたいのは、何故彼女にあのドレスを用意した? 他にも女性用の服があるはずだろう?」
リカルドを睨みつけるルシアン。
「あるのかもしれませんが、女性用の服を管理しているのはメイド達です。彼女たちに用意させられるわけにはいきませんでした。私が準備できたのはあの方が残されたドレスだったからです。その管理を任せたのはルシアン様ではありませんか」
「あれは別に保管しろという意味で言ったわけじゃない。全てお前に任せるという意味で託したんだ。そこには捨てておけという意味だってあるだろう?」
「そんな……私の独断であの方のドレスを捨てるなど出来るはず無いではありませんか。捨ててほしかったなら、はっきりそう仰って下さい」
「……もういい! この話は終わりだ。それで、今肝心のイレーネ嬢はどうしている?」
書類の山に目を通しながらルシアンは尋ねた。
「はい、『コルト』へお戻りになられました。2日後に必ず戻ってまいりますと話されておりました」
「何だって? もうここを出たのか? それで馬車はどうした?」
驚いて顔を上げるルシアン。
「『スザンヌ通り』で辻馬車に乗って駅に行くと話されておりました。自分の姿を他の使用人たちに、見られないほうが良いだろうからと言って。馬車代と切符代を渡しましたら、とても嬉しそうに『ルシアン様によろしくお伝え下さい』と言われました」
「まさか……マイスター家の客人に辻馬車を使わせてしまうなんて……何故、馬車を出してやらなかった? しかも俺に顔を見せずに……」
あまりのことに頭を抑えるルシアン。
「ルシアン様……お言葉を返すようではありますが、ルシアン様が仰られたのではありませんか。他の使用人たちには絶対にイレーネさんの姿を見られないようにと。本来であれば私が馬車をお出ししたかったのですが、それを頑なに拒否されたのが彼女でした。忙しいのに迷惑はかけられない、馬車代を出して貰えただけで十分ですと言っておられました」
「そう……だったのか……?」
「はい、そうです。そこでフード付きのマントをイレーネさんにお貸しし、エントランスまで私が案内致しました。書斎にはフットマンがいたので、ご挨拶出来なかったのです。何しろ、早めに家に戻って準備をしたいと話されておりましたから」
「……話は分かった。それではもう彼女は駅に向かっているというわけか……」
「はい、そうですね」
「それにしても……しっかりした女性だったな」
「はい、私もそう思います。ルシアン様」
その後、ルシアンとリカルドは今後のことについて話し合いを始めた――
ルシアンは書斎でリカルドに尋問していた。
「全く……お前は、どうして肝心なことを言わない? イレーネ嬢に借金があって、住む場所も無くしそうだということを何故黙っていた?」
「申し訳ございません。ただ、こちらは非常にデリケートな話でありまして……私はイレーネさんのマイナス評価になりそうな部分を伏せておきたかったのです。プライバシーの問題でもありましたし。いずれ、ご本人の口からルシアン様に告げられるだろうと思いましたので……」
その言葉にルシアンはため息をつく。
「……別に、そんなことで彼女の評価を下げたりなどしない。遊んで自ら借金を作ってしまうような女性では無いことくらい、見て分かったしな」
すると、リカルドが意味深な笑みを浮かべる。
「おやぁ……ルシアン様。もうイレーネさんの人となりが分かったような口ぶりですね?」
「な、何だ? その顔は……?」
「いえ、何でもありません。ですが……素敵な女性だとは思いませんか? 外見もさることながら、性格も」
「……だが、所詮は女だ」
ルシアンは視線をそらせる。
「ルシアン様、ですが……」
「それよりもだ! どういうことだ? 何故彼女があのドレスを着ていたのだ?」
「それは、イレーネさんが着替えを持ってきていなかったからです。でもよくお似合いでした。そうは思いませんでしたか?」
「そんなことはどうでもいい。俺が言いたいのは、何故彼女にあのドレスを用意した? 他にも女性用の服があるはずだろう?」
リカルドを睨みつけるルシアン。
「あるのかもしれませんが、女性用の服を管理しているのはメイド達です。彼女たちに用意させられるわけにはいきませんでした。私が準備できたのはあの方が残されたドレスだったからです。その管理を任せたのはルシアン様ではありませんか」
「あれは別に保管しろという意味で言ったわけじゃない。全てお前に任せるという意味で託したんだ。そこには捨てておけという意味だってあるだろう?」
「そんな……私の独断であの方のドレスを捨てるなど出来るはず無いではありませんか。捨ててほしかったなら、はっきりそう仰って下さい」
「……もういい! この話は終わりだ。それで、今肝心のイレーネ嬢はどうしている?」
書類の山に目を通しながらルシアンは尋ねた。
「はい、『コルト』へお戻りになられました。2日後に必ず戻ってまいりますと話されておりました」
「何だって? もうここを出たのか? それで馬車はどうした?」
驚いて顔を上げるルシアン。
「『スザンヌ通り』で辻馬車に乗って駅に行くと話されておりました。自分の姿を他の使用人たちに、見られないほうが良いだろうからと言って。馬車代と切符代を渡しましたら、とても嬉しそうに『ルシアン様によろしくお伝え下さい』と言われました」
「まさか……マイスター家の客人に辻馬車を使わせてしまうなんて……何故、馬車を出してやらなかった? しかも俺に顔を見せずに……」
あまりのことに頭を抑えるルシアン。
「ルシアン様……お言葉を返すようではありますが、ルシアン様が仰られたのではありませんか。他の使用人たちには絶対にイレーネさんの姿を見られないようにと。本来であれば私が馬車をお出ししたかったのですが、それを頑なに拒否されたのが彼女でした。忙しいのに迷惑はかけられない、馬車代を出して貰えただけで十分ですと言っておられました」
「そう……だったのか……?」
「はい、そうです。そこでフード付きのマントをイレーネさんにお貸しし、エントランスまで私が案内致しました。書斎にはフットマンがいたので、ご挨拶出来なかったのです。何しろ、早めに家に戻って準備をしたいと話されておりましたから」
「……話は分かった。それではもう彼女は駅に向かっているというわけか……」
「はい、そうですね」
「それにしても……しっかりした女性だったな」
「はい、私もそう思います。ルシアン様」
その後、ルシアンとリカルドは今後のことについて話し合いを始めた――