はじめまして、期間限定のお飾り妻です
27話 昨日のお礼
ガラガラと走り続ける辻馬車の中で、イレーネは窓から外の景色を上機嫌で眺めていた。
「もうすぐ、私はこの町に住むことになるのね……1人で行動できるように道を覚えておかなくちゃ。フフフ……それにしても夢みたいだわ。田舎者の私がこんな大都会で暮らすことになるなんて。本当にリカルド様とルシアン様には感謝をしないと」
イレーネの心はこれからの新生活に浮き立ち……駅に辿り着く迄の間、ずっと窓の外を注視し続けるのだった。
馬車が駅前広場に到着したのは9時半を過ぎていた。
「どうもありがとうございました」
御者に馬車代、1500ジュエルを支払うとイレーネは駅前に降り立つ。
「昨日も感じたけど、土ぼこりが立たない町というのは新鮮ね。おかげで、お借りしたドレスが汚れなくて済むもの」
イレーネは自分の着ているドレスを見ると、次に手帳を取り出した。ここには時刻表が記されている。昨日この駅に降り立った時に、彼女が事前に時刻表をメモしておいたのだ。
「今が9時半だから……次の汽車まで後1時間くらいあるわね‥…どこかでお昼でも買っておこうかしら……あら? あの方は……?」
噴水前で、昨日イレーネをマイスター家まで連れて行ってくれた青年警察官が年老いた老人に道を教えている姿が目に入った。
「そうだわ、折角なので昨日のお礼を伝えましょう」
そこでイレーネは少し離れた場所で、道案内が終わるのを待つことにした。
やがて老人は道が分かったのか、お辞儀をすると背を向けて去って行く。
「道案内が終わったようね」
すると、青年警察官の方がイレーネの視線に気付いた様子で近付いてきた。
「あの……もしやあなたは……?」
「こんにちは、お巡りさん。昨日はお仕事中なのに、私をマイスター伯爵家まで連れて行っていただき、心より感謝いたします」
笑顔で挨拶するイレーネ。
「ああ、やっぱりあなただったのですね。見事なブロンドの髪だったので、もしやと思ったのですが。もしかして、今から帰るのですか?」
「はい、そうです。でも、2日後にはここに戻ってまいりますが」
「え? そうなのですか?」
その言葉に目を丸くする警察官。
「はい。私、この町で暮らすことが昨日決まったのです。なので、これからまたどこかでお世話になることがあるかもしれませんね? その時はまたどうぞよろしくお願いいたします。お巡りさん」
「そうですね。困ったことがあれば、いつでも交番にいらして下さい」
「ありがとうございます。それで……早速なのですが……」
イレーネは恥ずかしそうに青年警察官を見上げる。
「何でしょう?」
「この近くに、パン屋さんは無いでしょうか?」
「え? パン屋さん……ですか?」
突然の質問に、青年警察官は目を見開いた――
****
「ありがとうございます。まさか、パン屋さんにまで案内して頂けるなんて。場所だけ教えて頂くだけでよろしかったのに」
店の前まで案内を受けたイレーネは改めてお礼を述べる。
「いいんですよ、このパン屋は人気があるのですが路地裏にあるので少し分かりにくい場所にありますからね。帰りはひとりでも大丈夫ですか?」
「はい。道は覚えたので大丈夫です。本当にありがとうございました」
「いいえ、それでは気を付けてお帰り下さい」
「はい」
笑顔で手を振り、青年警察官が去って行く。
その背中を見届けると、イレーネはパン屋の扉を開いた――
「もうすぐ、私はこの町に住むことになるのね……1人で行動できるように道を覚えておかなくちゃ。フフフ……それにしても夢みたいだわ。田舎者の私がこんな大都会で暮らすことになるなんて。本当にリカルド様とルシアン様には感謝をしないと」
イレーネの心はこれからの新生活に浮き立ち……駅に辿り着く迄の間、ずっと窓の外を注視し続けるのだった。
馬車が駅前広場に到着したのは9時半を過ぎていた。
「どうもありがとうございました」
御者に馬車代、1500ジュエルを支払うとイレーネは駅前に降り立つ。
「昨日も感じたけど、土ぼこりが立たない町というのは新鮮ね。おかげで、お借りしたドレスが汚れなくて済むもの」
イレーネは自分の着ているドレスを見ると、次に手帳を取り出した。ここには時刻表が記されている。昨日この駅に降り立った時に、彼女が事前に時刻表をメモしておいたのだ。
「今が9時半だから……次の汽車まで後1時間くらいあるわね‥…どこかでお昼でも買っておこうかしら……あら? あの方は……?」
噴水前で、昨日イレーネをマイスター家まで連れて行ってくれた青年警察官が年老いた老人に道を教えている姿が目に入った。
「そうだわ、折角なので昨日のお礼を伝えましょう」
そこでイレーネは少し離れた場所で、道案内が終わるのを待つことにした。
やがて老人は道が分かったのか、お辞儀をすると背を向けて去って行く。
「道案内が終わったようね」
すると、青年警察官の方がイレーネの視線に気付いた様子で近付いてきた。
「あの……もしやあなたは……?」
「こんにちは、お巡りさん。昨日はお仕事中なのに、私をマイスター伯爵家まで連れて行っていただき、心より感謝いたします」
笑顔で挨拶するイレーネ。
「ああ、やっぱりあなただったのですね。見事なブロンドの髪だったので、もしやと思ったのですが。もしかして、今から帰るのですか?」
「はい、そうです。でも、2日後にはここに戻ってまいりますが」
「え? そうなのですか?」
その言葉に目を丸くする警察官。
「はい。私、この町で暮らすことが昨日決まったのです。なので、これからまたどこかでお世話になることがあるかもしれませんね? その時はまたどうぞよろしくお願いいたします。お巡りさん」
「そうですね。困ったことがあれば、いつでも交番にいらして下さい」
「ありがとうございます。それで……早速なのですが……」
イレーネは恥ずかしそうに青年警察官を見上げる。
「何でしょう?」
「この近くに、パン屋さんは無いでしょうか?」
「え? パン屋さん……ですか?」
突然の質問に、青年警察官は目を見開いた――
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「ありがとうございます。まさか、パン屋さんにまで案内して頂けるなんて。場所だけ教えて頂くだけでよろしかったのに」
店の前まで案内を受けたイレーネは改めてお礼を述べる。
「いいんですよ、このパン屋は人気があるのですが路地裏にあるので少し分かりにくい場所にありますからね。帰りはひとりでも大丈夫ですか?」
「はい。道は覚えたので大丈夫です。本当にありがとうございました」
「いいえ、それでは気を付けてお帰り下さい」
「はい」
笑顔で手を振り、青年警察官が去って行く。
その背中を見届けると、イレーネはパン屋の扉を開いた――