はじめまして、期間限定のお飾り妻です
29話 幼馴染への頼み
14時過ぎにイレーネは自分の屋敷に到着した。
「やっぱり、馬車を使うと楽ね~。だけど、こんなに贅沢したら今にバチが当たってしまいそうだわ」
質素倹約を心がけているイレーネにとって、馬車を使うことはとても贅沢なことであり、後ろめたい気分にもさせてしまう。
「でも、これは足の裏に出来た豆のせい……そう、やむを得ずのことよ」
イレーネは自分にそう言い聞かせると扉を開けて屋敷の中へ入り、早速荷造りの準備を始める為に自室へ向かった。
「とりあえず、まずはこの服を着替えなくちゃね。片付けの最中に汚したり、破いたりしたら大変だもの。きっと今の私には弁償も出来ないくらい高級ドレスに違いないものね」
そこでイレーネは衣装箱から自分の粗末な服を取り出すと、早速着替えを始めた――
**
日が暮れ始めた頃――
「ふぅ……荷造りはこんなものかしら?」
荷造りを終えたイレーネは椅子に腰掛けると、ため息をついた。
彼女がマイスター伯爵家に持っていく荷物はトランクケース2つ分だけだった。一つは今自分が持っている全ての服。
もう一つには祖父の形見の品や、2人の思い出の写真。そして数冊の本。
「それにしても、持っていく荷物がたったこれだけだったなんて……こんなことなら1日もあれば準備なんて十分だったかしら?」
そこまで考えていたとき……
――コンコン
がらんどうな屋敷の中に、ドアノッカーの音が響き渡った。
「多分、ルノーね」
イレーネは椅子から立ち上がると、玄関へ向かった。
扉についているドアアイを覗き込むと、やはり訪ねてきたのはルノーだった。
「いらっしゃい、ルノー」
イレーネは扉を開けた。
「良かった……今日はちゃんといてくれたんだな? 本当に昨夜は驚いたよ。訪ねても君がいないんだものな。驚きで心臓が止まるかと思った」
「大袈裟ね、ルノーは。どうぞ入って」
クスクス笑いながらイレーネはルノーを屋敷に招き入れた。
「それで、俺に大事な話って何だ? いや、その前に昨夜一体何があったんだ? どこにいたんだよ」
椅子に座るなり、ルノーは矢継ぎ早に質問してくる。
「ルノーはせっかちねぇ。はい、まずはお茶でもどうぞ」
イレーネは淹れたての紅茶をテーブルに置くと、自分も向かい側の席に座った。
「あ、ああ。ありがとう」
気を落ち着かせるためにルノーは紅茶を口にする。
「ルノー。あなたは私の幼馴染であり、弁護士でもあるわよね?」
イレーネはじっとルノーを見つめた。
「その通りだが……突然何を言い出すんだ?」
紅茶を飲みながらルノーは首を傾げる。
「弁護士なら、当然口が固くないといけないわよね?」
「まぁ、そうだな。依頼人の秘密は守らないと」
「ええ、だからあなたを見込んで頼みがあるのよ」
イレーネが身を乗り出した。
「頼み? まぁ、他ならぬイレーネの頼みだから聞くけれど……でもその前に質問に答えてくれないか? 昨夜は一体どこにいたんだよ?」
「そのことだけど、昨夜は『デリア』にあるマイスター伯爵家のお屋敷に泊めていただいたのよ」
「はぁ? 伯爵家の屋敷にだって? 話がちっとも読めないんだが?」
再び、紅茶を口にするルノー。
「ええ、実はね……私、マイスター伯爵と結婚することになったの。それでこの屋敷はもう必要無くなるので、ルノーに屋敷の売却処分をしてくれる人を紹介してもらいたいの。あなたは弁護士で顔が広いから心当たりの人がいるのじゃないかしら?」
「な、何だって――!!」
ルノーの驚愕の声が、がらんどうの部屋に響き渡った――
「やっぱり、馬車を使うと楽ね~。だけど、こんなに贅沢したら今にバチが当たってしまいそうだわ」
質素倹約を心がけているイレーネにとって、馬車を使うことはとても贅沢なことであり、後ろめたい気分にもさせてしまう。
「でも、これは足の裏に出来た豆のせい……そう、やむを得ずのことよ」
イレーネは自分にそう言い聞かせると扉を開けて屋敷の中へ入り、早速荷造りの準備を始める為に自室へ向かった。
「とりあえず、まずはこの服を着替えなくちゃね。片付けの最中に汚したり、破いたりしたら大変だもの。きっと今の私には弁償も出来ないくらい高級ドレスに違いないものね」
そこでイレーネは衣装箱から自分の粗末な服を取り出すと、早速着替えを始めた――
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日が暮れ始めた頃――
「ふぅ……荷造りはこんなものかしら?」
荷造りを終えたイレーネは椅子に腰掛けると、ため息をついた。
彼女がマイスター伯爵家に持っていく荷物はトランクケース2つ分だけだった。一つは今自分が持っている全ての服。
もう一つには祖父の形見の品や、2人の思い出の写真。そして数冊の本。
「それにしても、持っていく荷物がたったこれだけだったなんて……こんなことなら1日もあれば準備なんて十分だったかしら?」
そこまで考えていたとき……
――コンコン
がらんどうな屋敷の中に、ドアノッカーの音が響き渡った。
「多分、ルノーね」
イレーネは椅子から立ち上がると、玄関へ向かった。
扉についているドアアイを覗き込むと、やはり訪ねてきたのはルノーだった。
「いらっしゃい、ルノー」
イレーネは扉を開けた。
「良かった……今日はちゃんといてくれたんだな? 本当に昨夜は驚いたよ。訪ねても君がいないんだものな。驚きで心臓が止まるかと思った」
「大袈裟ね、ルノーは。どうぞ入って」
クスクス笑いながらイレーネはルノーを屋敷に招き入れた。
「それで、俺に大事な話って何だ? いや、その前に昨夜一体何があったんだ? どこにいたんだよ」
椅子に座るなり、ルノーは矢継ぎ早に質問してくる。
「ルノーはせっかちねぇ。はい、まずはお茶でもどうぞ」
イレーネは淹れたての紅茶をテーブルに置くと、自分も向かい側の席に座った。
「あ、ああ。ありがとう」
気を落ち着かせるためにルノーは紅茶を口にする。
「ルノー。あなたは私の幼馴染であり、弁護士でもあるわよね?」
イレーネはじっとルノーを見つめた。
「その通りだが……突然何を言い出すんだ?」
紅茶を飲みながらルノーは首を傾げる。
「弁護士なら、当然口が固くないといけないわよね?」
「まぁ、そうだな。依頼人の秘密は守らないと」
「ええ、だからあなたを見込んで頼みがあるのよ」
イレーネが身を乗り出した。
「頼み? まぁ、他ならぬイレーネの頼みだから聞くけれど……でもその前に質問に答えてくれないか? 昨夜は一体どこにいたんだよ?」
「そのことだけど、昨夜は『デリア』にあるマイスター伯爵家のお屋敷に泊めていただいたのよ」
「はぁ? 伯爵家の屋敷にだって? 話がちっとも読めないんだが?」
再び、紅茶を口にするルノー。
「ええ、実はね……私、マイスター伯爵と結婚することになったの。それでこの屋敷はもう必要無くなるので、ルノーに屋敷の売却処分をしてくれる人を紹介してもらいたいの。あなたは弁護士で顔が広いから心当たりの人がいるのじゃないかしら?」
「な、何だって――!!」
ルノーの驚愕の声が、がらんどうの部屋に響き渡った――