はじめまして、期間限定のお飾り妻です
36話 新人?
イレーネとジャックは和やかに話をしながら、2人で仕事をしていた。
「それで? イレーネはどこから来たんだっけ?」
棚の備品を片付けながらジャックが尋ねる。
「はい、私は『コルト』の町から来ました」
イレーネは雑巾がけをしながら答える。
「『コルト』か……随分遠くから来たんだなぁ。しかもその若さで……両親を亡くして、しかも育ててくれた祖父まで亡くすなんて……ううっ。本当にイレーネは苦労したんだなぁ……」
ジャックが目をうるませる。
「ええ。でも、縁あってこちらでお世話になることが出来たので、私は運が良かったです。仕事を教えてくれるジャックさんも良い人ですし」
「そ、そうか? そう言われると……何だか照れくさいな」
目元を赤くするジャック。そこへホールに集められた使用人たちがゾロゾロと戻ってきた。
そして一人のフットマンがジャックの姿を見て近づいてきた。
「おい! ジャック、お前こんなところで何してたんだよ」
「え? 何って……見ての通り仕事ですけど?」
「あのなぁ、さっきまでルシアン様から大事な話があって俺たち全員ホールに集められていたんだよ!」
「ええ!? そうだったんですか! 俺……お使いに行ってたので知らなかったんですよ!」
ジャックは自分だけホールに行かなかったことを知り、顔が青ざめる。
「全く……仕方ないなぁ。でも知らなかったなら仕方ないか……ん? ところで、あんたは何者だ?」
フットマンは雑巾を握りしめているイレーネに気づいた。
「はい、私は今日からこちらでお世話になることが決まりましたイレーネと申します。どうぞよろしくお願いします」
「イレーネ……? イレーネ……どこかで聞いたような気がする名前だが……ハハハ。まさかな」
先程ホールで集められた時に、本日イレーネ・シエラという大事な客人がこの屋敷にやってくるという話をルシアンから聞かされた。
だが、エプロン姿に雑巾を手にしたイレーネがその本人だとは彼は思いもしなかったのだ。
「ここで俺が、新人のイレーネに仕事を教えてあげていたんですよ」
ジャックが説明する。
「ふ〜ん……だが、新しいメイドが来るなんて話、聞かされていなかったがな……でも、人手が足りなかったから丁度いいか。俺はフットマンのホセ。ここの部署のリーダーを務めている。よろしくな。イレーネ」
「はい、よろしくお願いします」
「ホセさん。イレーネの世話なら俺に任せてください。責任を持って仕事を教えますから」
自らイレーネの世話を申し出てきたジャック。
「そうだな……お前もそろそろ一人前のフットマンになってもいい頃だし……それじゃ、お前にイレーネの世話を頼むとするか」
「ええ、お任せ下さい」
「よろしくおねがいします、ジャックさん」
胸を叩くジャックにイレーネは頭を下げた。
こうして再び、イレーネとジャックは仕事を始めた。
けれど、イレーネはまだ知らない。
未だにマイスター家を訪ねてこないイレーネをリカルドとルシアンがどれだけ心配しているかということを――
「それで? イレーネはどこから来たんだっけ?」
棚の備品を片付けながらジャックが尋ねる。
「はい、私は『コルト』の町から来ました」
イレーネは雑巾がけをしながら答える。
「『コルト』か……随分遠くから来たんだなぁ。しかもその若さで……両親を亡くして、しかも育ててくれた祖父まで亡くすなんて……ううっ。本当にイレーネは苦労したんだなぁ……」
ジャックが目をうるませる。
「ええ。でも、縁あってこちらでお世話になることが出来たので、私は運が良かったです。仕事を教えてくれるジャックさんも良い人ですし」
「そ、そうか? そう言われると……何だか照れくさいな」
目元を赤くするジャック。そこへホールに集められた使用人たちがゾロゾロと戻ってきた。
そして一人のフットマンがジャックの姿を見て近づいてきた。
「おい! ジャック、お前こんなところで何してたんだよ」
「え? 何って……見ての通り仕事ですけど?」
「あのなぁ、さっきまでルシアン様から大事な話があって俺たち全員ホールに集められていたんだよ!」
「ええ!? そうだったんですか! 俺……お使いに行ってたので知らなかったんですよ!」
ジャックは自分だけホールに行かなかったことを知り、顔が青ざめる。
「全く……仕方ないなぁ。でも知らなかったなら仕方ないか……ん? ところで、あんたは何者だ?」
フットマンは雑巾を握りしめているイレーネに気づいた。
「はい、私は今日からこちらでお世話になることが決まりましたイレーネと申します。どうぞよろしくお願いします」
「イレーネ……? イレーネ……どこかで聞いたような気がする名前だが……ハハハ。まさかな」
先程ホールで集められた時に、本日イレーネ・シエラという大事な客人がこの屋敷にやってくるという話をルシアンから聞かされた。
だが、エプロン姿に雑巾を手にしたイレーネがその本人だとは彼は思いもしなかったのだ。
「ここで俺が、新人のイレーネに仕事を教えてあげていたんですよ」
ジャックが説明する。
「ふ〜ん……だが、新しいメイドが来るなんて話、聞かされていなかったがな……でも、人手が足りなかったから丁度いいか。俺はフットマンのホセ。ここの部署のリーダーを務めている。よろしくな。イレーネ」
「はい、よろしくお願いします」
「ホセさん。イレーネの世話なら俺に任せてください。責任を持って仕事を教えますから」
自らイレーネの世話を申し出てきたジャック。
「そうだな……お前もそろそろ一人前のフットマンになってもいい頃だし……それじゃ、お前にイレーネの世話を頼むとするか」
「ええ、お任せ下さい」
「よろしくおねがいします、ジャックさん」
胸を叩くジャックにイレーネは頭を下げた。
こうして再び、イレーネとジャックは仕事を始めた。
けれど、イレーネはまだ知らない。
未だにマイスター家を訪ねてこないイレーネをリカルドとルシアンがどれだけ心配しているかということを――