はじめまして、期間限定のお飾り妻です

39話 主と執事

「リカルド……夜のお勤めとは……一体どういうことだ?」

ルシアンが口元に笑みを浮かべながらリカルドを見る。しかし、目は少しも笑っていない。これが一番マズイ状況であるということを、リカルドは知り尽くしている。

「ル、ルシアン様……こ、これはそう! 誤解、誤解なのです!」

「ほう? 誤解? 一体どんな誤解なのだ? 詳しく教えて貰おうじゃないか?  だがその前に……」

ルシアンはイレーネに視線を移す。

「イレーネ嬢」

「はい、何でしょうか? ルシアン様」

「もう、メイドの仕事はしなくていい。とりあえず、今日は休むといい。リカルドに客室を案内させよう」

「はい、ルシアン様!」

(やった! この場から逃げられる!)

リカルドは喜々として返事をするが、次に告げられたリカルドの言葉に冷や水を浴びせかけられる。

「いいか? イレーネ嬢を客室に案内したら、ここへ戻ってくるように。分かったか?」

ジロリと睨みつけられるリカルド。

「は……はい! で、ではイレーネさん。参りましょう」

「はい。では失礼致します、ルシアン様」

イレーネは立ち上がると、挨拶した。

「ああ、明日また会おう。……リカルド」

「はい! ルシアン様!」

リカルドは背筋をピンと伸ばす。

「……イレーネ嬢の誤解をきちんと、解くのだぞ。責任を持ってな」

「も……勿論です」

こうして、奇妙な動きを見せるリカルドに連れられてイレーネはダイニングルームを後にした。


「……全く」

ダイニングルームに1人残ったリカルドため息をつき、すっかり冷めてしまった料理を口にした。

「……生ぬるいスープだ……」

そして再びため息をついた――


****

1時間後――

「ルシアン様、戻りました……」

ビクビクしながらリカルドがルシアンの待ち受けるダイニングルームに戻ってきた。
すっかりテーブルの上が片付けられ、今はルシアンの飲んでいるワインとグラスだけが置かれている。

「ああ、戻ったか。イレーネ嬢に客室を用意したのか?」

「ええ、勿論です! 前回よりも素晴らしい客室にご案内致しました! メイド長にもイレーネさんのことを伝えてまいりました。それに使用人部屋に置かれた荷物も客室へ運びました!」

リカルドは説教を恐れ、媚びを売るように揉み手をしながら返事をする。

「そうか……」

ルシアンは手元のワインを煽るように一気に飲み干すと、乱暴にグラスを置いた。

「それで? 先程の話だが……一体、お前は彼女になんて説明したんだ!」

「え、ええとですね……説明と申しますか、求人案内に……記しました」

「ほぅ……では聞かせてもらおうじゃないか? その求人の内容とやらを?」

両手を組み、口元に笑みを浮かべるルシアン。しかし、その目は恐ろしいほど冷え切っている。

「はい、実は……」

リカルドは覚悟を決めて、求人の内容を伝えた。すると、みるみるうちにルシアンの顔が青ざめていき……。

「リカルド!! お前……一体なんてことを書いてくれたんだ!!」

ルシアンの怒鳴り声が、ダイニングルームに響き渡るのだった――



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