はじめまして、期間限定のお飾り妻です
40話 それは誤解ではありません
「一体何なんだ? その募集要項は。 二十四時間体制だが、基本夜の勤務は殆ど無い? けれど夜勤が入る場合は別途給金を上乗せだとは。このような内容では誰だって勘違いするに決まっているだろう!? お前は俺を獣扱いしているのか! 一体どういうつもりでこんなことを書いたんだ!」
ルシアンは肩で荒い息を吐きながらまくしたてた。
「そ、それはですね。ほら、アレです。時には王侯貴族の親睦を深める目的で夜会などが開かれることがあるではありませんか?」
「ああ、あるな。それがどうした?」
「そうなると、結婚しているのであれば夫婦そろって出席を求められるのは当然のことですよね?」
「確かにその通りだが……まさかその意味合いで二十四時間体制、時には夜勤がはいると書いたのか!?」
ルシアンはワインの瓶を掴むと、勢いよくグラスに注ぐ。
「はい、その通りです……」
「な、何てことだ……イレーネ嬢が勘違いするのは当然じゃないか! これでは契約妻に夫婦生活を強要するような最低な男としてとられてしまったに決まっている!」
ルシアンはグラスを握りしめると、まるで水のようにワインを一気に飲み干した。
「落ち着いて下さい。ルシアン様、そんなに乱暴な飲み方ではお身体に障ります」
「誰のせいで、落ち着けないと思っているんだ! 絶対、彼女は俺に不信感を抱いているに違いない……何がまた明日会おうだ! もう顔向けできないじゃないか……」
どこまでも生真面目なルシアン。
酔いがすっかり回っていた彼はリカルドにイレーネの誤解を解くように説明したことなど忘れていた。
「それなら大丈夫です、ご安心ください。イレーネ嬢は決して怪しい意味合いではとらえておりませんでした。流石は私の見込んだ女性のことだけありました!」
「何だと……? 一体それはどういう意味だ……?」
顔を赤く染め、半分目が座っているルシアンがリカルドを見上げた。
「はい、イレーネさんは夜の夫婦生活のことを想定してはいなかったのですよ。メイドとしての夜勤があるのかと思っていたのです。それで、あのようなことを尋ねられたのですよ」
「そうだったのか……? そう言えば、イレーネ嬢は契約妻兼メイドの仕事をするものだと勘違いしていたな……」
「ええ、そうです。なので、誤解を解くまでも無かったのですよ。何しろ初めから誤解されていたのですから」
「初めから誤解だったから、誤解を解くまでも無かった……? 妙な言い回しだな……だが、今回は彼女が人並み以上に鈍い女性で助かったということか……」
ワイングラスをぐるぐる回すルシアン。
「そうなのです。彼女は良く言えば、純粋で素直。悪く言えば、世間の感覚とは何処かズレている。そう言う女性なのです。絶対にイレーネさんなら1年後離婚するとき、もめることは無いはずです! きっと喜んでルシアン様との離婚に応じてくれることでしょう!」
胸を張るリカルド。
「その、最後の『喜んで離婚に応じる』という言い方はあまり気に入らないが……それなら問題ないということだな?」
ルシアンは念押しした。
「ええ、全く問題はありません」
「……分かった。それでは明日から祖父にイレーネ嬢を会わせる為の事前準備をはじめなければな。今夜はとりあえず客室を用意したが、他の使用人たちに騒がれる前に、早急にイレーネ嬢の部屋を用意してくれ。……そうだな、一応夫婦と言う事になるのだから、部屋は俺の隣にしたほうが良いだろう」
「はい。では早速、明日手配いたします」
「ああ。イレーネ嬢のことは、ひとまず今は安心ということだな」
「ええ、その通りです」
ルシアンとリカルドは、すっかり油断していた。
だが、2人はまだ知らない。
使用人たちの間でイレーネの件について大騒ぎになっていたということを。
勿論発端となった人物は、メイド長にジャックであることは言うまでも無い――
ルシアンは肩で荒い息を吐きながらまくしたてた。
「そ、それはですね。ほら、アレです。時には王侯貴族の親睦を深める目的で夜会などが開かれることがあるではありませんか?」
「ああ、あるな。それがどうした?」
「そうなると、結婚しているのであれば夫婦そろって出席を求められるのは当然のことですよね?」
「確かにその通りだが……まさかその意味合いで二十四時間体制、時には夜勤がはいると書いたのか!?」
ルシアンはワインの瓶を掴むと、勢いよくグラスに注ぐ。
「はい、その通りです……」
「な、何てことだ……イレーネ嬢が勘違いするのは当然じゃないか! これでは契約妻に夫婦生活を強要するような最低な男としてとられてしまったに決まっている!」
ルシアンはグラスを握りしめると、まるで水のようにワインを一気に飲み干した。
「落ち着いて下さい。ルシアン様、そんなに乱暴な飲み方ではお身体に障ります」
「誰のせいで、落ち着けないと思っているんだ! 絶対、彼女は俺に不信感を抱いているに違いない……何がまた明日会おうだ! もう顔向けできないじゃないか……」
どこまでも生真面目なルシアン。
酔いがすっかり回っていた彼はリカルドにイレーネの誤解を解くように説明したことなど忘れていた。
「それなら大丈夫です、ご安心ください。イレーネ嬢は決して怪しい意味合いではとらえておりませんでした。流石は私の見込んだ女性のことだけありました!」
「何だと……? 一体それはどういう意味だ……?」
顔を赤く染め、半分目が座っているルシアンがリカルドを見上げた。
「はい、イレーネさんは夜の夫婦生活のことを想定してはいなかったのですよ。メイドとしての夜勤があるのかと思っていたのです。それで、あのようなことを尋ねられたのですよ」
「そうだったのか……? そう言えば、イレーネ嬢は契約妻兼メイドの仕事をするものだと勘違いしていたな……」
「ええ、そうです。なので、誤解を解くまでも無かったのですよ。何しろ初めから誤解されていたのですから」
「初めから誤解だったから、誤解を解くまでも無かった……? 妙な言い回しだな……だが、今回は彼女が人並み以上に鈍い女性で助かったということか……」
ワイングラスをぐるぐる回すルシアン。
「そうなのです。彼女は良く言えば、純粋で素直。悪く言えば、世間の感覚とは何処かズレている。そう言う女性なのです。絶対にイレーネさんなら1年後離婚するとき、もめることは無いはずです! きっと喜んでルシアン様との離婚に応じてくれることでしょう!」
胸を張るリカルド。
「その、最後の『喜んで離婚に応じる』という言い方はあまり気に入らないが……それなら問題ないということだな?」
ルシアンは念押しした。
「ええ、全く問題はありません」
「……分かった。それでは明日から祖父にイレーネ嬢を会わせる為の事前準備をはじめなければな。今夜はとりあえず客室を用意したが、他の使用人たちに騒がれる前に、早急にイレーネ嬢の部屋を用意してくれ。……そうだな、一応夫婦と言う事になるのだから、部屋は俺の隣にしたほうが良いだろう」
「はい。では早速、明日手配いたします」
「ああ。イレーネ嬢のことは、ひとまず今は安心ということだな」
「ええ、その通りです」
ルシアンとリカルドは、すっかり油断していた。
だが、2人はまだ知らない。
使用人たちの間でイレーネの件について大騒ぎになっていたということを。
勿論発端となった人物は、メイド長にジャックであることは言うまでも無い――