はじめまして、期間限定のお飾り妻です
59話 馬車を止めろ!
16時――
「やっと商談が終わりましたね」
馬車の中でリカルドがルシアンに話しかけてきた。
「……ああ、そうだな」
馬車の窓から外を眺めながら憮然とした表情で返事をするルシアン。
「ルシアン様……先ほどの話、まだ気にされているのですか?」
「当然だろう? 今度お会いするときは執事ではなく、奥様を同伴して来られることを期待しておりますよ。などと言われたのだからな。絶対に彼も祖父の回し者に違いない」
「ルシアン様、やはり本来同伴するのは私では無かったのですね? だとしたら、すぐにでもイレーネさんを婚約者として現当主様に紹介されるべきではありませんか?」
「ああ、そうなのだ。分かってはいるのだが……若干、彼女については不安なことが……ん! おい! 馬車を止めてくれ!」
ルシアンの顔色が変わり、御者に命じる。
「ど、どうしたのですか? ルシアン様!」
突然顔色を変えて馬車を止めたルシアンに驚くリカルド。
「……彼女だ!」
ルシアンは馬車の扉を開けた。
「え? 彼女? 誰です?」
「イレーネのことに決まっているだろう!」
大きな声で答えると、ルシアンは慌てて馬車から飛び降りると駆け出していく。
「ルシアン様!」
リカルドも慌てて馬車から降りるとルシアンの後を追う。
「くそ! 一体イレーネは何をやってるんだ!?」
ルシアンの視線の先には大量の荷物抱えて歩くイレーネの姿があった。しかも両肩からも荷物がぶら下がっており、町を歩く人々は奇異の目で彼女を見ている。
細い身体でフラフラと歩くイレーネは見るからに危なっかしい。
「イレーネ!!」
ルシアンは大声で名前を呼んだ。
「え? キャア!!」
突然名前を呼ばれたイレーネはバランスを崩して転びそうになった。
「危ない!!」
ルシアンは咄嗟に背後からイレーネを支え、彼女が手にしていた荷物がドサドサと足元に落ちる。
「あ……ルシアン様? お仕事はもう終わったのですか?」
抱き留められながらイレーネはルシアンを見上げる。
「ああ、先程終わったところ……じゃなくて! 一体君は何をしていたんだ!? 女性がこんなに沢山の荷物をひとりで抱えて歩くなんて……! 危ないじゃないか!」
そこへリカルドも追いつき、イレーネが持っていた大量の荷物を見て目を見開く。
「イレーネさん……まさか、たった1人でこの荷物を持って歩いていたのですか?」
「はい、そうです。あ、もう1人で立てるので大丈夫ですよ。買い物を済ませて、辻馬車乗り場を目指して歩いていたところなのです」
ルシアンの身体を軽く押して、2人の向かい合わせに立つとイレーネは笑みを浮かべた。
「その大量の荷物を……1人でか? しかもその身なりで?」
ルシアンが片手で頭を抑えながらため息をつくのは無理も無かった。何故なら今、イレーネが着ているのはマダム・ヴィクトリアの店で購入した流行のデイ・ドレスなのだからだ。
何処からどう見ても貴族女性姿で、大量の荷物を抱えて歩く様は注目を浴びるのも無理は無かった。
「イレーネさん。もう買い物は終わったのですよね?」
苦笑しながらリカルドは尋ねる。
「ええ。勿論です。だって、これ以上はもう持てそうにありませんもの」
何とも的外れな返事をするイレーネ。
「……分かった、もういい。向こうで馬車を待たせてある。俺たちと一緒に帰ろう」
ルシアンがため息をついた。
「まぁ、乗せて下さるのですか? それはありがとうございます」
「乗せるのは当然だろう? 何しろ君は……」
「はい、1年間の契約妻ですから」
ルシアンの言葉にイレーネは頷く。
「……」
しかし、その言葉にルシアンは言い返すことが出来ない。理由はどうあれ、事実なのだから。
「それでは参りましょうか?」
イレーネは足元に落ちた荷物を拾い上げようとし‥‥‥。
「「荷物は持たなくていい(いいです)!!」」
ルシアンとリカルドが同時に声を上げた――
「やっと商談が終わりましたね」
馬車の中でリカルドがルシアンに話しかけてきた。
「……ああ、そうだな」
馬車の窓から外を眺めながら憮然とした表情で返事をするルシアン。
「ルシアン様……先ほどの話、まだ気にされているのですか?」
「当然だろう? 今度お会いするときは執事ではなく、奥様を同伴して来られることを期待しておりますよ。などと言われたのだからな。絶対に彼も祖父の回し者に違いない」
「ルシアン様、やはり本来同伴するのは私では無かったのですね? だとしたら、すぐにでもイレーネさんを婚約者として現当主様に紹介されるべきではありませんか?」
「ああ、そうなのだ。分かってはいるのだが……若干、彼女については不安なことが……ん! おい! 馬車を止めてくれ!」
ルシアンの顔色が変わり、御者に命じる。
「ど、どうしたのですか? ルシアン様!」
突然顔色を変えて馬車を止めたルシアンに驚くリカルド。
「……彼女だ!」
ルシアンは馬車の扉を開けた。
「え? 彼女? 誰です?」
「イレーネのことに決まっているだろう!」
大きな声で答えると、ルシアンは慌てて馬車から飛び降りると駆け出していく。
「ルシアン様!」
リカルドも慌てて馬車から降りるとルシアンの後を追う。
「くそ! 一体イレーネは何をやってるんだ!?」
ルシアンの視線の先には大量の荷物抱えて歩くイレーネの姿があった。しかも両肩からも荷物がぶら下がっており、町を歩く人々は奇異の目で彼女を見ている。
細い身体でフラフラと歩くイレーネは見るからに危なっかしい。
「イレーネ!!」
ルシアンは大声で名前を呼んだ。
「え? キャア!!」
突然名前を呼ばれたイレーネはバランスを崩して転びそうになった。
「危ない!!」
ルシアンは咄嗟に背後からイレーネを支え、彼女が手にしていた荷物がドサドサと足元に落ちる。
「あ……ルシアン様? お仕事はもう終わったのですか?」
抱き留められながらイレーネはルシアンを見上げる。
「ああ、先程終わったところ……じゃなくて! 一体君は何をしていたんだ!? 女性がこんなに沢山の荷物をひとりで抱えて歩くなんて……! 危ないじゃないか!」
そこへリカルドも追いつき、イレーネが持っていた大量の荷物を見て目を見開く。
「イレーネさん……まさか、たった1人でこの荷物を持って歩いていたのですか?」
「はい、そうです。あ、もう1人で立てるので大丈夫ですよ。買い物を済ませて、辻馬車乗り場を目指して歩いていたところなのです」
ルシアンの身体を軽く押して、2人の向かい合わせに立つとイレーネは笑みを浮かべた。
「その大量の荷物を……1人でか? しかもその身なりで?」
ルシアンが片手で頭を抑えながらため息をつくのは無理も無かった。何故なら今、イレーネが着ているのはマダム・ヴィクトリアの店で購入した流行のデイ・ドレスなのだからだ。
何処からどう見ても貴族女性姿で、大量の荷物を抱えて歩く様は注目を浴びるのも無理は無かった。
「イレーネさん。もう買い物は終わったのですよね?」
苦笑しながらリカルドは尋ねる。
「ええ。勿論です。だって、これ以上はもう持てそうにありませんもの」
何とも的外れな返事をするイレーネ。
「……分かった、もういい。向こうで馬車を待たせてある。俺たちと一緒に帰ろう」
ルシアンがため息をついた。
「まぁ、乗せて下さるのですか? それはありがとうございます」
「乗せるのは当然だろう? 何しろ君は……」
「はい、1年間の契約妻ですから」
ルシアンの言葉にイレーネは頷く。
「……」
しかし、その言葉にルシアンは言い返すことが出来ない。理由はどうあれ、事実なのだから。
「それでは参りましょうか?」
イレーネは足元に落ちた荷物を拾い上げようとし‥‥‥。
「「荷物は持たなくていい(いいです)!!」」
ルシアンとリカルドが同時に声を上げた――